崩壊倍率・推定崩壊荷重とは?使用される場面、計算の概要を解説

建物が水平荷重を受けたとき、崩壊メカニズム(全体または一部が破壊する形)を仮定して得られる最大の水平抵抗力が「推定崩壊荷重」です。

これは、構造物が持つ耐震性能の限界を示す指標のひとつです。

そして、その崩壊荷重を設計地震力で割った値が「推定崩壊倍率」です。

この倍率が高ければ高いほど、設計時に想定された地震力よりも余裕を持った耐力を持っていると評価されます。

使用される場面

  • 耐震診断:既存建物の耐震性能評価において、第二次・第三次診断で用いられます。
  • 耐震改修設計・限界耐力計算:新築建物の高度な耐震設計、または補強設計に活用されます。
  • プッシュオーバー解析:静的増分解析によって崩壊荷重や崩壊形状を確認する場面で重要です。

推定崩壊倍率・崩壊荷重の計算の概要

以下のような手順で推定崩壊荷重と推定崩壊倍率は算定されます。

  1. 構造モデルの作成
    RCやS造の部材(柱・梁・壁・ブレースなど)を適切にモデル化します。部材ごとに塑性ヒンジの特性や破壊モードも設定します。
  2. 水平荷重の段階的増加
    プッシュオーバー解析により、地震力相当の水平荷重を段階的に増加させます。部材の塑性化や崩壊の進展を追跡します。
  3. 崩壊状態の確認
    最終的な崩壊形(柱の塑性ヒンジ集中や耐力壁の破壊)が現れた時点で解析を停止し、総合的な水平荷重を「推定崩壊荷重」として記録します。
  4. 倍率の算定
    推定崩壊荷重を、設計用の地震力や必要保有水平耐力で除し、「推定崩壊倍率」として評価します。

評価の基準

  • 推定崩壊倍率 ≧ 1.0:十分な耐力が確保されている。
  • 推定崩壊倍率 < 1.0:設計上の地震力に対して耐力が不足しており、倒壊のリスクがある。

耐震診断などでは、建物の安全性を確保するためにこの崩壊倍率が1.0を超えることが目標となります。

RC造とS造での比較表

特徴RC造S造
主構造材鉄筋コンクリート鋼材(鉄骨)
靭性高い(粘り強く壊れにくい)非常に高い(大変形能力がある)
崩壊形の特徴耐力壁や柱梁が段階的に破壊ブレース破断・柱座屈が支配的
解析時の注意点ひび割れによる剛性低下に留意接合部の塑性ヒンジや局所座屈に注意
崩壊倍率の目安1.0以上1.0以上

推定崩壊倍率とIs値の違い

Is値は、建物の構造耐震性能を総合的に数値化した指標です。一方で、推定崩壊倍率は単純に「設計地震力に対してどれだけ耐力があるか」を示します。

両者は似て非なるものであり、Is値が高くても推定崩壊倍率が1.0未満であれば注意が必要です。逆に、崩壊倍率が高くてもIs値が低ければ、劣化や形状の不利など他の要因でリスクが存在する可能性があります。

注意すべき点

  • 静的解析の限界:プッシュオーバー解析は静的な仮定に基づいています。実際の地震動には動的な特性があるため、解析結果はあくまで目安です。
  • モデル化の精度:部材剛性、荷重配分、剛床仮定などにより結果が変わる可能性があります。
  • 局所破壊への配慮:柱脚、梁端、接合部の損傷などが無視されていないかを慎重に確認する必要があります。

Q&A

Q1. 推定崩壊倍率とは何を示しているのですか?
A. 建物が保有している最大の水平耐力を、設計用地震力と比較して「何倍の耐力があるか」を示す指標です。1.0を超えると基本的に構造的には安全と判断されます。

Q2. 推定崩壊荷重の解析にはどのような手法が使われますか?
A. プッシュオーバー解析(静的増分解析)が一般的です。建物モデルに水平荷重を徐々に加え、崩壊メカニズムの形成と共に最大耐力を求めます。

Q3. RC造とS造では推定崩壊倍率の考え方に違いはありますか?
A. 基本的な考え方は同じですが、部材の構成や破壊モードが異なるため、解析モデルの設定や注意点に差があります。

Q4. 崩壊倍率が1.0以上であれば補強は不要ですか?
A. 一概には言えません。他の評価指標(例:Is値)や建物の劣化状況、地盤条件なども踏まえて判断すべきです。

まとめ

推定崩壊倍率と推定崩壊荷重は、建物の構造的限界を把握するうえで極めて重要な指標です。特に既存建物の耐震診断や、性能設計においてはこれらの指標が、建物の安全性を数値で明確に示す役割を果たします。

RC造・S造など構造種別ごとの特性を踏まえて、適切な解析手法を選択し、必要に応じて補強計画に反映することが求められます。