建築分野では、鋼材(スチール)は構造の骨組みを支える重要な材料です。
鋼材にもいくつか種類があり、用途に応じて適切なものを選定することが安全性や経済性の面で重要になります。
本記事では、建築で使われる代表的な鋼材であるSS材、SM材、SN材、SB材などの種類ごとの特徴や、柱・梁・ブレース・デッキ・外装といった用途別の鋼材選びのポイントについて解説します。
さらに、鋼材の機械的性質やJIS規格・建築基準法との関係、それぞれのメリット・デメリット、実際の設計や施工での使用例、そして最後によくある疑問へのQ&Aもまとめました。ぜひ鋼材選定の参考にしてください。
建築で使われる鋼材の種類と特徴
建築用途で使用される主な鋼材には、一般構造用圧延鋼材(SS材)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、建築構造用圧延鋼材(SN材)、ボイラー用鋼材(SB材)などがあります。
それぞれ名称や規格が異なり、強度や成分、性能に特徴があります。まずは各鋼材の概要と特徴を見ていきましょう。
SS材(一般構造用圧延鋼材)とは
SS材は Steel Structure の略称で、正式には「一般構造用圧延鋼材」を指します。
JIS G 3101という日本工業規格に定められた鋼材で、化学成分の細かな規定がほとんど無いのが特徴です。
リン(P)と硫黄(S)など有害元素の含有量に上限(各0.05%以下)がある程度で、炭素量は約0.15〜0.2%と抑えられています。このため製造コストが低く価格が安価で入手しやすい鋼材であり、歩留まり(材料ロスの少なさ)も良いことから、建築や土木など幅広い分野で最も使用頻度が高い汎用鋼材です。特にSS400が代表的な等級で、コストパフォーマンスに優れ扱いやすいため実務で基本的に用いられる標準鋼材となっています。
SS材の等級は強度レベルごとに4種類あり、SS330、SS400、SS490、SS540があります。この数字はそれぞれの引張強さの最低保証値をN/mm²(おおよそMPa)で示しており、例えばSS400であれば引張強度が400〜510N/mm²程度で保証されることを意味します。
一方で降伏点(耐力)は規格上明確に規定されていませんが、設計上はSS400の場合およそ235N/mm²程度(例えば厚さ16mm以下の鋼板)を降伏強度の目安に用います。なお、SS材は炭素含有量が低いため熱処理には適さず、また溶接性の保証もないことから、重要な溶接箇所には基本的に使用しない点に注意が必要です。
実際、SS490やSS540といった高強度のSS材は炭素量がやや多く溶接時に割れを生じやすいため、溶接を伴う場面での使用は避けられる傾向にあります。
SM材(溶接構造用圧延鋼材)とは
SM材は「溶接構造用圧延鋼材」(JIS G 3106)のことで、名の通り溶接構造向けに成分調整された鋼材です。
SはSteel(鋼)、MはMarine(船舶)を意味しており、もともと造船用に開発された歴史を持ちます。SM材は軟鋼(マイルドスチール)にマンガン(Mn)やシリコン(Si)を添加し、
一方でリン(P)・硫黄(S)などの不純物含有量をSS材より低く抑えることで、高い溶接性を確保しているのが特徴です。同じ構造用鋼でも、SS材が安価で使いやすい反面、化学成分の規定がなく溶接性の保証もないため、溶接が必要な重要部位では成分規定があり溶接性が保証されたSM材が用いられます。
SM材の強度区分も複数あり、代表的なものにSM400、SM490、SM520、SM570などがあります(数字はおおよその引張強度の下限値を示す点はSS材と同様です)。さらに末尾にアルファベットが付く場合があり、SM400A/B/Cといった表記では、A種は耐候性を高めたタイプ、B種・C種はシャルピー衝撃試験による靭性保証を行ったタイプを意味します。
例えばA種は耐候性(耐食性)が高く屋外環境で錆びにくい成分設計になっており、B種・C種は低温環境でも脆性破壊しにくい靭性を持つことを特長とします。
このようにSM材は様々な仕様がありますが、総じて溶接構造物の主要鋼材として、造船だけでなく産業機械、発電プラント、建築鉄骨など幅広い分野で使用されています。
SN材(建築構造用圧延鋼材)とは
SN材は「建築構造用圧延鋼材」(JIS G 3136)の略称で、その名の通り建築物の骨組みに使うために開発された鋼材です。
SNはしばしば Steel New の略とも説明され、実際に1994年に誕生した比較的新しい規格で、1995年の阪神淡路大震災以降に規格要件が厳格化され普及した経緯があります。
従来、建築鉄骨には前述のSM材(溶接構造用鋼板)が用いられてきましたが、耐震性の見直しに伴い現在ではSN材が建築鉄骨の主流として採用されるようになりました。SN材には強度区分としてSN400とSN490の2種類が設定されており、建築分野で従来使われてきた一般鋼材の強度水準を踏まえたものになっています。
SN材の大きな特徴は、建築物の耐震安全性を高めるために材質や性能の規定が厳しく定められている点です。具体的には、炭素含有量の上限、板厚に応じた特性、降伏点(YP)や降伏比(YR)の上限値、溶接時の靭性確保(シャルピー衝撃試験条件)などが詳細に規定されています。
これは、SN材が主に柱や大梁など建築物の主要構造部材に使われることを想定し、大地震時に溶接部の脆性破壊や亀裂が生じにくいように設計されているためです。例えばSN材B種では厚板での降伏比が80%以下に制限され(過大な降伏比は塑性変形能力を損なうため)、一定厚以上では0℃で27J以上の衝撃エネルギーを吸収できる靭性を求められるなど、塑性変形能力と靭性に優れる仕様になっています。その結果、SN材はSS材や従来のSM材に比べて溶接部での脆性破壊・亀裂が起こりにくく、高い耐震性を持つ鋼材となっています。
なお、SN材にも用途や必要性能に応じてA種・B種・C種の区分があります。A種は一般的に主要構造部以外(小梁や間柱など)で弾性範囲内で使用される場合に適し、B種は主要構造部位に広く使われる標準仕様、C種は特に板厚方向(Z方向)の引張応力が大きくかかる箇所向けの仕様です。C種では板厚方向の材質(Z向き靭性)が保証され、例えば溶接箱型柱の厚板パネルやダイアフラムなど、大きな溶接熱入力やZ方向拘束がある部分に用いられます。
このようにSN材は建築物の安全性を支えるため細部まで配慮された鋼材と言えます。
SB材(ボイラ及び圧力容器用鋼材)とは
SB材は「ボイラ及び圧力容器用炭素鋼」(JIS G 3103)に分類される鋼材で、その名のとおりボイラーや高圧容器など高温環境下で使用されることを想定した鋼材です。
SBはSteel Boilerの略称で、重要機器の胴や管などに使われる圧力容器用材料として位置付けられています。この鋼材は、基本的に溶接構造での使用を前提にしつつも、常温を超える高温下で長時間使用されても性質が劣化しにくいよう調整されているのが特徴です。具体的には、高温で長時間使用すると鋼が脆化する原因のひとつである黒鉛化(グラファイト化)を起こしにくい組成設計となっており、400℃程度までの耐熱性を持たせていますhiga-metal.com。鋼種によってはモリブデン(Mo)を添加したSB-M材もあり、こちらは耐熱温度がさらに向上し約550℃まで使用可能とされていますhiga-metal.com。
SB材の強度区分にはSB410、SB450、SB480などがあり、数字は引張強さの目安を示しますhiga-metal.com。例えばSB410の場合、常温での降伏強度はおよそ225N/mm²以上、引張強さは410~550N/mm²程度となっていますhiga-metal.com。常温強度だけ見るとSS400に近い水準ですが、前述の通り高温下での強度維持性能に優れる点が異なります。なお、SB材はSM材と同様に溶接可能な鋼材ですが、硬度が高い分だけ溶接性はやや劣るため、特に厚板を溶接する際には十分な予熱や厳格な溶接管理が必要とされていますhiga-metal.com。建築の一般的な骨組みに直接使われることは少ないものの、建築設備(ボイラーや圧力タンク)や産業プラント配管など、高温高圧にさらされる構造物には欠かせない鋼材です。
その他の鋼材(耐候性鋼材・ステンレス鋼材など)
上記のほかにも、用途に応じて様々な鋼材が建築分野で利用されています。例えば、耐候性鋼材(SMA材など)は、大気中で表面に安定した錆の膜(酸化被膜)を形成することで、それ以上の腐食進行を抑制するよう成分調整された鋼材です。
耐候性鋼は塗装無しでも使用環境によっては錆が内部まで進まず長期間保護効果を発揮するため、橋梁や屋外の鉄骨架構、外装の意匠的な露出鉄骨などに用いられます。
また、建築物の外装パネルや装飾部材にはステンレス鋼材(SUS材)が使われるケースもあります。ステンレス鋼はクロム(Cr)やニッケル(Ni)を含み高い耐食性を持つため、外装材や手すりなど錆を嫌う部分に適しています。一方で構造強度という点では一般鋼材より高価で降伏強度も劣るものが多いため、主要構造用にはあまり用いられません。
用途ごとの鋼材の選び方
建築構造設計では、部位ごとに要求される性能に応じて適切な鋼材を選定します。柱(柱材)や梁(はり)、ブレース(筋かい)、デッキプレート、外装など、それぞれの用途で求められる特性が異なるためです。以下に主な部位別の鋼材選びのポイントをまとめます。
建築部位と適用鋼材のまとめ表
部位 | 主な使用鋼材 | 選定理由・ポイント | 備考 |
---|---|---|---|
柱 | SN材(B種・C種) SM材(中小規模) SS材(簡易構造) | – 高靭性・耐震性が求められる主要構造部 – 溶接接合部の信頼性が重要 | SN材で降伏比制限により塑性変形性能を確保 |
梁 | SN材(主梁) SM材・SS材(小梁) | – エネルギー吸収が期待される部位 – 主梁には靭性と溶接性の高い鋼材を使用 | 主梁と従梁で材質を使い分ける設計が一般的 |
ブレース | SN材・SM材 (一部LYP材) | – 引張・圧縮の繰返しに耐える靭性が必要 – 座屈・破断防止も重要 | 制振用には意図的に降伏強度の低い材を使う場合あり |
デッキプレート | SS材相当の薄鋼板 | – 加工性・経済性重視 – 荷重は主にコンクリートが負担 | 通常は防錆めっき処理された冷間成形鋼板を使用 |
外装・屋外露出部 | 耐候性鋼材(SMA材) ステンレス鋼 溶融亜鉛めっき鋼材 | – 耐食性・美観が重視される – メンテナンス性向上 | 無塗装での使用や意匠性を考慮した材選びが重要 |
■ 補足
- 構造的に重要な部位(柱・梁・ブレース)には、原則としてSN材が推奨される(溶接性・靭性・降伏比が優秀)。
- 経済性が優先される二次部材や簡易構造には、SM材・SS材が選ばれることもある。
- 屋外部位では、耐候性鋼や防錆処理鋼材が必須であり、耐食性が材質選定の中心となる。
以上のように、部位ごとに要求性能(強度・靭性・耐食性・加工性など)を考慮して鋼材を選定することが大切です。次項では、これらの用途別適材を一覧できるマトリクス表を示します。
用途別おすすめ鋼材マトリクス表
各用途に対して、どの鋼材が適しているかをまとめたマトリクス表を以下に示します。◎は最適、○は適している、△は条件次第で使用可、×は通常使用しないことを表します。
用途/鋼材種 | SS材 | SM材 | SN材 | SB材 | その他 |
---|---|---|---|---|---|
柱(主要架構) | △(小規模建物向き) | ○(可) | ◎(推奨) | ×(高温用) | - |
梁(主要架構) | △(小規模建物向き) | ○(可) | ◎(推奨) | × | - |
ブレース | △(靭性不足) | ○ | ◎ | × | ※LYP材等も |
デッキプレート | ◎(標準) | - | - | - | (デッキ専用材) |
外装・露出部 | △(防錆要塗装) | △ | △ | - | ◎(耐候性鋼・SUS) |
※上記は一般的な目安です。
実際の設計では部材厚さや接合方法、建物規模・用途などを考慮し、適宜材料選定が行われます。
また、SN材は建築主要部材に有効ですが、すべての部材をSN材にすると構造全体の粘りが減る可能性があるため主要部に限定して使われます。SB材は通常建築骨組みには用いませんが、ボイラー等の設備に限り使用します。
鋼材の機械的特性(強度・靭性・溶接性・耐火性など)
次に、鋼材の機械的特性について押さえておきましょう。
鋼材を選ぶ際には、引張強さや降伏点といった強度指標だけでなく、靭性(ねばり強さ)や溶接性、耐火性なども考慮します。それぞれの特性と鋼材種類ごとの概観を解説します。
特性 | 説明 | SS材 | SM材 | SN材 | SB材 |
---|---|---|---|---|---|
引張強さ | 破断までの最大応力(MPa) 例:SS400 ≒ 400MPa | SS400:400MPa級 | SM490:490MPa級など | SN490以上も多数 | 400~500MPa級もあり |
降伏点・降伏比 | 塑性変形開始の応力/引張強さ比 | 明確規定なし(SS400で約235MPa) 降伏比高め | B・C種あり(降伏比規定) | B種/C種は降伏比≦80%(粘り強い) | 降伏比の規定は特になし |
靭性 | 衝撃・繰返し荷重への耐性(粘り強さ) | 規定なし(低温脆性の懸念あり) | B・C種:シャルピー衝撃試験あり | C種:Z方向靭性も保証 | 高温下での靭性に優れるが、一般靭性は限定的 |
溶接性 | 溶接接合のしやすさ・信頼性 | 不純物多く溶接性は限定的 | P・S含有量少なく良好 | 高い溶接性+靭性も確保 | 溶接可能だが厚板は要注意(予熱必要) |
耐火性(高温特性) | 高温下での強度維持性 | 300℃程度が限界 | 一般鋼材と同程度 | 一般鋼材と同程度 | 400~500℃対応可 クリープ特性も考慮 |
■ 補足
- SN材は、引張強さ・降伏比・靭性・溶接性すべてにおいて建築構造用としてバランスが良く、耐震性能に優れる。
- SM材は、SN材に次ぐ性能で汎用的に使いやすく、コストも抑えやすい。
- SS材は安価だが、構造性能・溶接性に不安があるため、非重要部材や簡易構造に限定。
- SB材は高温特化型で、耐火設計や高温機器構造での使用に限定的。
以上の特性を総合的に理解し、求められる性能水準に見合った鋼材を選定することが、信頼性の高い構造設計につながります。
JIS規格と建築基準法との関係
建築用鋼材とJIS規格の概要
鋼材種別 | 対応JIS規格 | 主な用途 | 特徴 |
---|---|---|---|
SS材 | JIS G 3101 | 一般構造用 | 安価・加工性良/靭性・溶接性は限定的 |
SM材 | JIS G 3106 | 溶接構造用 | 溶接性良/高強度グレードあり |
SN材 | JIS G 3136 | 建築構造用 | 耐震性・靭性・降伏比に優れる/構造部材に最適 |
SB材 | JIS G 3103 | 高温圧力容器用 | 高温下での使用に対応/火力・化学プラント等に用いる |
■ 法的・設計上のポイント
項目 | 内容 |
---|---|
建築基準法 | 主要構造材料には一定の強度と品質を要求。JIS規格品の使用は法的適合性の担保となる。 |
設計基準との関係 | 許容応力度や材質係数などは、JIS規格に基づき設定。例:SS400の基準強度など。 |
耐震設計との関係 | 大震災後、靭性重視へ。**SN材(特にB・C種)**の使用が推奨され、Z向き靭性も設計指針で重要視。 |
大臣認定が必要な例 | JISに無い鋼材(例:HT780、耐火鋼など)を使用する場合、国交大臣認定が必要。 |
■ 鋼材(SS材・SM材・SN材・SB材)のメリット・デメリットの比較
鋼材種別 | 主な用途 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
SS材(一般構造用圧延鋼材) | 一般建築、軽構造物 | – 安価で入手しやすい – 加工がしやすい – 流通サイズが豊富 | – 溶接性の保証なし – 錆びやすい(低耐食性) – 高強度材は流通が少ない |
SM材(溶接構造用圧延鋼材) | 建築・産業機械などの溶接構造物 | – 溶接性・靭性に優れる – 成分・品質が安定 – 高強度材・耐候性材の派生品あり | – SS材より高価 – 建築ではSN材に移行中 |
SN材(建築構造用圧延鋼材) | 耐震設計が必要な建築構造物 | – 耐震性が高く安全性が高い – 溶接性・靭性が厳格に保証 – 建築での採用実績が豊富 | – 材料コストが高め – 少量調達では割高 – 防錆性は特に高くない |
SB材(ボイラー・圧力容器用鋼材) | ボイラー、高温配管、プラント設備 | – 高温下でも強度維持 – 500℃超でも使用可能 – 加工・溶接性も比較的良好 | – 用途が限定的で高価 – H形鋼がなく手間がかかる – 高度な溶接管理が必要 |
補足
- SS材=コスト重視+簡易用途向け
- SM材=中強度・溶接構造用の定番
- SN材=耐震構造の標準材(特に中高層建築)
- SB材=高温耐性が必要な特殊用途向け
実際の構造設計や施工での使用例
最後に、実際の建築構造設計や工事で各種鋼材がどのように使われているか、いくつか具体例を紹介します。
建築用途別:鋼材の使用事例まとめ
建築用途 | 主な使用鋼材 | 特徴・ポイント |
---|---|---|
高層ビル・大規模建築 | 柱:SN490C 梁:SN490B 二次部材:SM材・SS400 | ・溶接信頼性と靭性重視 ・主要部にSN材が標準採用 ・非構造部はコスト配慮でSS材併用 |
中低層鉄骨造(5〜10階) | 柱:SN400B 梁:SM490YB 小規模建物:SS400 | ・SM材とSN材の併用が一般的 ・倉庫などではSS材主体も可 ・部分的に高性能材を使い分ける例も |
鉄骨ブレース構造 | SN400B山形鋼 SN490B丸鋼管 (一部LY225など) | ・繰返し地震時の塑性変形に対応 ・溶接・接合部の信頼性が重要 ・制振設計ではLYP材を使う場合も |
デッキプレート | SS400相当薄鋼板(1.2mmなど) ※亜鉛めっき加工品 | ・床スラブ一体化用の成形鋼板 ・施工性・加工性重視 ・構造寄与時は安全側強度で選定 |
ボイラー設備(圧力容器) | SB450などSB材 (場合によりモリブデン鋼) | ・高温・高圧対応の必須材料 ・主にメーカー製造部材 ・建築では設備計画時に確認必要 |
屋外鉄骨・外装部材 | COR-TEN鋼(耐候性鋼) ステンレス鋼材 | ・耐食性・景観配慮で採用 ・庇やモニュメントなどで無塗装使用 ・海沿いでは塩害対策材も使用 |
■ 補足
- SN材は主要構造材として高層〜中層建築で標準採用される傾向。
- SM材・SS材はコスト重視の中小規模建築で適材適所に使われる。
- 特殊環境(高温・屋外・塩害)ではSB材・耐候性鋼・ステンレスなどが使われる。
このように、実際の構造設計・施工では鋼材の種類ごとの特性を理解し使い分けることが重要です。
設計段階では安全率とコスト、施工段階では加工性と信頼性、維持管理段階では耐久性や交換容易性といった観点も踏まえて、最適な鋼材選定が行われています。
よくある疑問(Q&A)
最後に、鋼材の選び方についてよく寄せられる質問とその回答をQ&A形式でまとめます。
Q1. SS材とSN材の違いは何ですか?
A. SS材(一般構造用鋼材)は主に強度(引張強さ)のみを規定した汎用鋼材で、化学成分の細かな規定や溶接性保証がありません。一方、SN材(建築構造用鋼材)は建築物の主要構造向けに開発された鋼材で、成分・靭性・降伏比など性能が厳格に規定されています。
簡単に言えば、SS材は安価で手に入りやすいが溶接や耐震性能に不安があり、SN材は割高だが溶接部の信頼性が高く地震に強いという違いがあります。耐震基準が厳しくなった現在では、柱や梁など主要部分にはSN材を用い、二次部材にSS材を用いるといった使い分けが一般的です。なお、SS材の代表格がSS400であるのに対し、SN材はSN400・SN490がありますが、SN400は強度面ではSS400と同等で靭性などが改善されたバージョンと考えると分かりやすいでしょう。
Q2. SS400やSN490の「400」「490」という数字にはどんな意味がありますか?
A. これらの数字は、鋼材の引張強さの下限値をN/mm²単位で表しています。
たとえばSS400の場合、引張強さがおおよそ400~510N/mm²の範囲であることを意味します。同様にSN490であれば最低でも490N/mm²程度の引張強度があるということです。ただし、設計上重要なのは降伏強度(耐力)です。SS400の降伏強度は約235N/mm²(厚さによりますが)とされ、これが構造計算で使われます。一方SN490の降伏強度は通常325N/mm²程度です。
材料記号の数字は「切断するまでに耐えられる力の大きさ」を示し、数字が大きいほど強い鋼材と言えます。ただし前述のとおり、強度が高いと靭性確保が難しくなる面もあるため、数字のみで優劣は決まりません。
Q3. 建築基準法でSN材の使用は義務ですか?SS材はもう使えないのですか?
A. 現状、建築基準法でSS材の使用が禁止されているわけではありません。法令上は必要な強度・性能を満たす鋼材であれば使用可能です。ただし、阪神淡路大震災以降の耐震設計の高度化に伴い、実務上は主要構造部にSN材を用いることが強く推奨されています。
特に溶接継手を多用する骨組みでは、SS材のみで構成するのはリスクが高いため、設計者が自主的にSN材や高靱性材を指定するケースがほとんどです。逆に、小規模な構造やプレハブ建築などでは、溶接を最小限に留める設計とした上で依然としてSS材を使うこともあります。
建築基準法は材料そのものより構造全体の安全性を問うので、SS材かSN材かは所与ではなく、安全性を確保できるならSS材でも良いのです。ただし今後ますます安全志向が高まれば、事実上SN材が標準となり、SS材は二次部材用途に限られていくでしょう。
Q4. 耐候性鋼材とは何ですか?どんなときに使うのですか?
A. 耐候性鋼材とは、大気中で表面に保護性の錆(さび)層を形成する特殊な鋼材です。銅(Cu)やリン(P)を添加することで錆の進行を遅らせ、塗装をしなくても長期間にわたり深部まで錆びにくい性質を持ちます。英名ではWeathering Steelとも呼ばれ、代表例に「COR-TEN(コルテン鋼)」があります。用途としては、橋梁や送電鉄塔、建築物の外装フレームなど、塗装の維持管理を省略したい屋外の構造物に使われます。建築分野では美観を活かして、敢えて錆びた風合いをデザインに取り入れるケースもあります。
ただし、耐候性鋼材も万能ではなく、塩害地域(海岸近く)や湿潤な環境では望む効果が得られません。また初期の錆発生時に赤錆が流出して他の部材を汚す恐れもあるため、用途と環境を選んで使う必要があります。
Q5. 鋼材は火災に強いのですか?耐火被覆なしで使える鋼材はありますか?
A. 普通の鋼材(軟鋼)は火災時の高温には弱いです。約600℃程度で強度が半分以下に落ちてしまうため、建築物では柱や梁に耐火被覆を施すことが法令で義務付けられています(建築基準法施行令第107条など)。しかし、近年では耐火被覆無しでも一定時間耐えられる耐火鋼材(FR鋼材)も開発されています。
これはモリブデンやニオブを添加した特殊鋼で、高温での強度低下を緩やかにするものです。例えば新日鐵住金(現・日本製鉄)やJFEスチールでは「耐火H形鋼」が製品化されており、通常より厚い塗装を施すだけで1時間耐火性能を持たせることができます。ただしコストが高いため、現状では超高層の一部など限定的な採用に留まります。一般には耐火被覆をしっかり施工するのが現実的でしょう。
なお、SB材について言えば、あくまで常用高温に耐える鋼材であり、火災のような極限状況での耐火性能とは別物です。火災安全設計にSB材が直接寄与することはあまりありません。
まとめ
建築に用いる鋼材には、SS材(一般構造用鋼材)、SM材(溶接構造用鋼材)、SN材(建築構造用鋼材)、SB材(ボイラー用鋼材)など様々な種類があり、それぞれ強度・靭性・溶接性・耐食性などに特徴があります。
適切な鋼材選定のためには、各鋼材のメリット・デメリットを理解し、用途(柱・梁・ブレース・デッキ・外装など)に応じて最適なものを選ぶことが肝要です。現在の耐震設計の潮流では、主要構造部材にSN材を用いて靱性を確保し、二次部材には経済的なSS材やSM材を組み合わせる手法が一般化しています。また、JIS規格や建築基準法の定めるところに沿って材料を選べば、安全性と法令順守の両面で安心です。
今後も鋼材の性能向上や新材料の開発は進むと予想されますが、基本となる考え方は「適材適所」です。例えば「安価で汎用なSS材」「溶接に強いSM材」「耐震向けのSN材」「高温用のSB材」「錆に強い耐候性鋼材」といった各鋼材の特質を理解し、設計・施工・維持管理それぞれの場面で最も効果的な使い方を選択しましょう。