今回は、建築構造における 端部横補剛 と 均等間隔横補剛 の違いについて解説します。
どちらも梁(はり)やブレースの横座屈(横方向への曲がり)を防ぐための重要な手法ですが、その配置方法や効果には違いがあります。
構造設計者や施工管理者の皆さんが設計・施工で迷ったときに役立つよう、定義から力学的な特徴、使い分けのポイント、メリット・デメリット、具体例、よくある疑問までを網羅してまとめます。
両者の定義と役割
端部横補剛とは、梁の両端部近くに横方向の補剛材(ブレースや小梁など)を集中して配置する方法です。梁の端部(柱との接合部付近)は曲げモーメントが大きく塑性ヒンジが生じやすいため、そこを重点的に補強して梁のねじれや横座屈を防ぎます。
一方、均等間隔横補剛とは、梁の全長にわたり一定の間隔で均等に補剛材を配置する方法です。スパン内で複数の箇所を拘束することで、梁全体の座屈長さを短縮し、部材全体で横座屈を抑制します。どちらの手法も梁やブレースの安定性向上が目的ですが、配置の考え方が異なるため適用場面や設計上の扱いも異なります。
力学的効果の違い(座屈抑制効果・応力伝達)
端部横補剛では、梁端部付近に集中配置した補剛材が塑性ヒンジ近傍の変形を強力に拘束します。梁端部での大きな曲げにより生じるねじれ変形を抑えることで、梁全体の面外変形(横方向へのたわみ)を小さくできます。端部に近い補剛ほど発揮する拘束力が大きく、少ない補剛材でも効果的に梁全体の座屈を抑制できる点が特徴です。
一方、均等間隔横補剛では、梁全長をいくつかの短い区間に区切るように補剛材を配置します。これにより各区間の座屈長さが短くなり、梁が座屈に至るまでの臨界荷重(座屈耐力)を高める効果があります。均等間隔配置の場合、座屈モードは各補剛点間で局所化され、全体が一斉に座屈するのを防ぎます。また、複数の補剛材があることで応力の分散が図れ、各補剛材が梁から受け取る引張・圧縮力も比較的小さくなります。
一方、端部横補剛では補剛箇所が少ない分、各補剛材に集中する力が大きくなる傾向があり、補剛材やその接合部には十分な剛性・耐力が求められます。
いずれの場合も、補剛材は梁フランジの横移動やねじれを拘束するため軸力やせん断力を分担し、梁の一部に生じる横方向の力を周囲の構造(柱や床スラブなど)へ伝達する役割を担います。
設計・施工上の使い分けのポイント
実際の設計では、梁の支持条件や荷重状態に応じて端部横補剛と均等間隔横補剛を使い分けます。
例えば、両端が剛接合されたラーメン架構の梁では、地震時に梁端部に塑性ヒンジが形成されることを想定し、端部付近を重点的に補剛する方法が有効です。梁端部をしっかり横補剛することで、塑性域に入った際も安定したエネルギー吸収が可能になります。
一方、単純梁(両端ピン支持)のように中央部に最大曲げが発生するケースでは、スパン中央を含め均等に横補剛を配置する方が効果的です。梁中央で横座屈が生じるリスクを減らすには、中間部での拘束が不可欠だからです。
また、部材の長さや細長比によっても適切な手法は異なります。長スパンで細長い梁ほど途中での拘束が必要となるため均等間隔補剛が選択される傾向にありますが、比較的短スパンで梁成が大きい場合は端部のみでも必要十分な場合があります。
施工上は、現場の状況や他部材との干渉も考慮します。スラブやデッキプレートで上フランジが拘束される梁では、下フランジ側に端部横補剛だけ設けて横座屈を防ぐケースもあります。逆に、スラブのない大梁(屋根梁など)では、小梁やブレースを用いて均等間隔に横つなぎ(ブリッジ)を入れることで安定性を確保します。
要するに、梁の曲げモーメント分布と周囲環境を踏まえて、端部集中型か均等配置型かを選択するのが設計・施工上のポイントです。
メリット・デメリットの比較(コスト・施工性・性能)
項目 | 端部横補剛 | 均等間隔横補剛 |
---|---|---|
長所(メリット) | ・補剛材の本数が少なく、コスト面で有利 ・梁中央部が空いており、空間利用しやすい(配管や意匠上の自由度が高い) ・塑性ヒンジ形成に配慮した耐震設計に適する | ・全体的に安定した補剛効果が得られる ・座屈長さが短くなり、耐座屈性能が高い ・補剛材に分散して力が伝わるため、個々の要求性能は比較的低い |
短所(デメリット) | ・座屈長さが長くなるため、梁に十分な剛性が必要 ・補剛材・接合部に高い剛性と精度が求められる ・部材の細長比に制限があり、追加補剛が必要なケースも | ・補剛材・接合部が増え、コストと施工手間が増加 ・設備配管・ダクトとの取り合いが多くなる可能性 ・補剛材が意匠上、視覚的に目立つ(天井なし空間など) ・補剛材の剛性不足で効果が不十分なケースあり |
適用例や具体的な使用ケース(鉄骨梁・ブレースなど)
鉄骨梁(H形鋼梁)の例では、床にコンクリートスラブがある梁は上フランジがスラブによって連続的に拘束されているため、施工段階を除けば追加の横補剛材を要さない場合があります。
一方、スラブのない屋根架構や大スパンのガーダーでは、途中で横つなぎ梁(ブリッジ材)を入れて均等間隔横補剛とするのが一般的です。例えば、10mを超える長大梁ではスパン中央付近に小梁を渡し、梁下フランジ同士を連結して互いの横座屈を防止します。逆に、スパンが短く剛な梁(例:スパン5m程度の大梁)では両端にだけブレースを設ける端部横補剛で必要十分なこともあります。
ブレース(耐震架構の筋かい)の場合も考えてみましょう。X形に交差するブレースは中央でお互いを支え合うため、均等間隔横補剛された状態と言えます。
一本斜めに通したシングルブレースでは長細い形状になるため、中間階にスラブやガーダーを設けて途中を支持するか、必要ならば部材途中に添え材を加えて座屈長さを短縮します。これも端部(上下の接合部)だけで支持するケースと、途中を支持するケースの違いです。
また、鋼製の柱や桁でも、必要に応じて所定の間隔で水平ブレースを入れたり、端部のみ補剛板を追加したりと、似た発想で横座屈対策を講じることがあります。
以下に端部横補剛と均等間隔横補剛の比較を表にまとめます。
端部横補剛 vs 均等間隔横補剛(比較表)
項目 | 端部横補剛 | 均等間隔横補剛 |
---|---|---|
配置方法 | 梁の両端近くに補剛材を集中配置。 端部周辺のみ拘束する。 | 梁全長にわたり一定間隔で複数の補剛材を配置。 スパン全域を均等に拘束。 |
座屈抑制の特徴 | 少数の補剛でも塑性ヒンジ域を強力に拘束し、梁全体の横座屈を抑える ただし中間部分の座屈長さは梁スパン全長となる。 | 補剛区間を細かく分割し、各区間の座屈長さを短縮。 梁全域にわたり安定した座屈抑制効果を発揮。 |
応力伝達・補剛材の力 | 補剛点が少ないため一箇所に生じる力が大きい。 強固な補剛材と接合部が必要。 | 補剛点が多く力を分散できる。 各補剛材の受け持つ力が小さく、比較的軽微な部材でも対応可能。 |
設計上の適用シーン | 梁端に大きなモーメントが生じるラーメン梁、短スパン梁など。 塑性ヒンジ対策に有効。 | 長大スパン梁、単純梁などスパン中央付近の座屈が問題となる場合。 全域で座屈リスクを低減したい場合。 |
施工性・コスト | 補剛材点数が少なく経済的。 中央部に部材が無く空間利用しやすい。 | 補剛材点数・接合が増えコスト増。 配管ダクト等との取り合いに注意。 |
Q&A(設計時によくある疑問)
Q1: どちらの方法を選べば良いか迷ったときの判断基準は?
A1: 梁の曲げモーメント図と細長比を確認しましょう。曲げが梁端に集中する場合や梁が比較的短い場合は端部横補剛で必要十分です。逆に、スパンが長く中央部に大きな曲げが発生する場合は均等間隔横補剛が適しています。また、建築基準の規定では両方式それぞれに細長比の制限や必要補剛剛性の条件が示されています。そのためまず部材の寸法・材質から必要な補剛条件を満たす方式を選ぶのが基本です。
Q2: 梁に取り付ける横補剛材はどんなものを使う?
A2: 一般的には小梁やアングル材、フラットバーなどの鋼材を用います。床梁の場合、同じ階の梁同士をつなぐブリッジ材(小梁)を配置することが多いです。ブレースとして山形鋼を斜めに入れる例もあります。重要なのはそれら補剛材が十分な曲げ・せん断剛性を持つことです。細すぎる材では座屈を抑えきれないため、設計時に補剛材の断面寸法も検討します。
Q3: 床スラブで梁フランジが固定されている場合も横補剛は必要ですか?
A3: 鉄骨造の床スラブ(デッキプレート+コンクリート)が梁上フランジと一体化している場合、床組完成後はスラブ自体が連続した横補剛の役割を果たします。そのため通常使用時には追加の横補剛材が不要な場合があります
。ただし施工途中(スラブ打設前)は梁が裸の状態ですので、仮設段階で一時的に補剛材を入れておくことがあります。設計上も、スラブによる拘束効果を過信せず必要に応じて補剛材を設ける計画を立てます。
Q4: 端部補剛と均等補剛を併用することは可能ですか?
A4: はい、状況によっては併用も検討されます。例えば基本的には均等間隔で配置しつつ、特に塑性化が予想される梁端部には補剛材を増やすケースです。ただし計算上はどちらか一方の方式で基準を満足すれば良いため、通常はシンプルにいずれかの方式として設計します。併用する場合は、それぞれの補剛材が干渉せず機能するよう納まりに注意が必要です。
Q5: 横補剛を追加するとコスト増になりますが、省略する方法はありますか?
A5: 近年では床スラブや壁構造を活用して横補剛材を減らす工法も検討されています。例えば、日本製鉄の提案する「ハイパービーム×横補剛材省略工法」では、剛性の高い床板により梁下フランジの補剛を省略できる場合があります。ただし、これらは専門機関での実験検証を経た特例的な設計手法です。一般の設計では、安全側に考えて必要な横補剛を省略しないことが原則です。コストとのバランスを見ながら、まずは端部のみか均等配置か適切な方式で計画し、どうしても難しい場合に専門的な代替案を検討しましょう。
まとめ
端部横補剛と均等間隔横補剛は、いずれも鉄骨梁やブレースの横座屈を防ぎ耐力を維持するための重要な手段です。
梁の形状や荷重条件によって適切な方式を選ぶことで、効率的かつ安全な構造設計が可能になります。それぞれ座屈抑制効果の発現パターンや施工上の特性が異なるため、本記事で述べた定義・力学的特徴・メリットデメリットを踏まえ、ケースに応じた最適な手法を検討してください。
最終的には、構造物全体の安全性と経済性のバランスをとりつつ、必要な横補剛を確実に配置することが肝要です。構造設計者・施工管理者にとって、これら横補剛の正しい使い分けは建築物の安全性とコスト管理の両面で大きな意味を持つでしょう。