ネジは、さまざまな産業界で欠かせない締結部品です。機械や建築、電子機器など幅広い分野で使用されており、その製造方法によって性能やコスト、耐久性が異なる場合があります。
ネジの製造方法を大きく分けると、「切削ネジ(切り込みネジ)」と「転造ネジ(成形ネジ)」の2つが代表的です。
本記事では、それぞれの特徴や用途を体系的に解説し、どのような場面でどのように使い分けるべきかを考えてみます。
切削ネジとは
切削ネジは、その名のとおり「切削加工」によってネジ山を形成するタイプのネジです。
棒状の素材(ワーク)を旋盤やタッピングマシン、NC自動旋盤などで削り、螺旋状のネジ山を切り出すのが一般的な工程です。
- 特徴
- 自由度が高い
ネジ山の形状やピッチを細かく設定しやすく、少量生産や特殊形状ネジの製作に向いています。 - 加工精度の高さ
切削工具を用いてひとつひとつ削り出すため、精密な寸法を出しやすいです。特に試作品や医療機器向けなど、厳密な公差管理を必要とする場面で採用されることが多いです。 - 時間とコスト
素材を削り取る工程が必要になるため、生産時間が比較的長くなりやすく、大量生産にはコスト面で不利になりがちです。
- 自由度が高い
- 主な用途
- 試作ネジや特殊形状ネジ
小ロットで、かつ複雑な形状要求がある場合には切削加工が適しています。 - 高精度ネジ
寸法誤差を最小限に抑えたい場合に使用されやすいです。実験装置や医療機器などの分野が典型例です。 - 一品生産
大量生産向けの投資が難しい場合にも、切削加工で対応できます。
- 試作ネジや特殊形状ネジ
転造ネジとは
転造ネジは「転造加工」(ロール成形)によってネジ山を成形するタイプのネジです。
圧延ロールまたは転造ダイスと呼ばれる工具で素材を塑性変形させ、ネジ山を形成します。刃先で削り取るのではなく、素材を押しつぶしながら螺旋形状をつくるのが特徴です。
- 特徴
- 高い強度
素材の繊維組織が切断されず、流れが変形に沿ってそのまま保持されるため、疲労強度が高い傾向があります。 - 大量生産向け
転造加工は一度セットアップすれば、同一形状のネジを短時間で大量に作れます。自動車部品などの大量生産に適しています。 - 表面仕上げが良好
金属組織を圧縮成形するため、表面が平滑になり、摩擦や摩耗に強くなります。
- 高い強度
- 主な用途
- 大量生産ネジ
スタンダードなボルトやナットなど、自動車や産業機械などの大量需要向けに広く用いられています。 - 高疲労強度を要求される部品
ねじ山に生じる応力集中を緩和できるため、動的負荷が大きい部品(エンジン周りなど)で優位性があります。 - コスト重視の大量生産ライン
1本あたりの単価を抑えられるため、長期にわたって安定供給が必要な製品に向いています。
- 大量生産ネジ
比較表:切削ネジと転造ネジ
項目 | 切削ネジ | 転造ネジ |
---|---|---|
製造工程 | 切削工具で材料を削り取りネジ山を形成 | 圧延ロールやダイスで材料を塑性成形 |
寸法精度 | 高精度だが時間とコストがかかる | 工具の精度に依存し一定度以上の安定 |
強度 | 繊維組織が切断されるため疲労強度は低め | 繊維組織を崩さず加工し疲労強度が高 |
量産性 | 小〜中ロット生産に向く | 大ロット生産に強み |
表面仕上げ | 切削痕が生じやすい | 圧延により滑らかで均質 |
主な用途 | 試作、特殊形状、高精度ネジなど | 大量生産、車載部品、高疲労強度部品 |
切削ネジと転造ネジの共通点
- ネジとしての基本機能
どちらも締結部材として機能し、ボルト・ナットやタッピングネジなどの形状を作り出せます。 - 材料選定
鋼材(SUS含む)や真鍮、アルミなど、一般的な金属材料が対象です。ただし、転造のほうが硬度や延性のある素材が向いている傾向があります。 - メッキや表面処理
最終的な防錆や潤滑を行う場面では、切削ネジ・転造ネジ共に同様の表面処理工程を施すことが多いです。
選択のポイント
- 生産数量とコスト
大量生産するなら転造ネジのほうがトータルコストを抑えやすいです。少量・多品種や特殊寸法なら切削ネジが適しています。 - 強度と耐久性
強度・疲労寿命が重要な用途(自動車・航空機部品など)では転造ネジが優位です。逆にそこまでの強度を要さない場合は切削でも十分なことが多いです。 - 精度要求
ミクロン単位の公差管理を必要とする場合、切削ネジのほうが微調整しやすいです。ただし近年は転造技術の進歩で高精度な成形も可能になっています。 - 素材特性
非常に硬い素材は転造が難しい場合があり、切削加工が選択されます。逆に延性が高い素材は転造による塑性加工との相性が良いです。
Q&A
Q1: 切削ネジと転造ネジは外観で見分けられますか?
A1: 一般的に転造ネジはネジ山の表面が滑らかで、一部頂点がきれいに潰れている特徴があります。切削ネジは切削痕がうっすら残ることが多いですが、外観だけでの判別は難しい場合もあります。
Q2: 転造ネジで高精度なピッチが必要な場合、問題はないですか?
A2: 昔は切削ネジのほうが高精度とされていましたが、近年の転造技術向上により、かなり高精度のピッチも実現可能です。ただし超高精度要求では切削が好まれるケースもあります。
Q3: 折れにくさや粘り強さが重要な場面ではどちらがいいですか?
A3: 転造ネジは繊維組織を切断しないため、疲労強度や粘り強さに優れる傾向があります。動的荷重や振動が多い環境では転造ネジが一般的に有利です。
Q4: 特殊形状のネジを短納期で用意したい場合はどうすればいいでしょうか?
A4: 切削で製作できる小ロット対応の工場や技術者に依頼するのがスムーズです。転造用のダイスを製作するにはリードタイムがかかります。
Q5: コスト面での大まかな目安はどうなりますか?
A5: 大量生産では転造のほうが安くなる可能性が高いです。少量生産や試作では、金型やダイスコストを考慮すると切削が安価な場合もあります。
まとめ
切削ネジは削り出しによる高い寸法精度や自由度が魅力で、小ロットや特殊形状のネジに向いています。
一方、転造ネジは素材を塑性加工することで表面強度や疲労耐性が高まり、しかも大量生産に有利です。
そのため、自動車や機械部品など大量供給が必要な用途に多く採用されています。それぞれのメリットを理解し、必要とされる精度や強度、量産性、コストを総合的に判断して選択することが大切です。