建物を安全に建てるためには、地盤がどの程度の荷重を支えられるかを正確に把握する必要があります。
その際によく使われる用語に「地盤反力」と「支持力」がありますが、これらは似て非なる概念です。
今回は、それぞれの定義や違いをわかりやすく解説します。
地盤反力とは
地盤反力(subgrade reaction)は、基礎などの構造物が地盤に荷重をかけたとき、地盤側から基礎を押し返す力のことをいいます。
建物の荷重が下向きに作用すれば、地盤はそれに対して上向きの抵抗力を発揮します。これが地盤反力です。
- 特徴
- 基礎底面の各位置ごとに異なる反力を示す場合がある
- 地盤が弾性的な性質を示すものと仮定したとき、基礎に対しバネのように反作用を及ぼすイメージ
- 主に「地盤バネ」や「地盤係数」の設定によりモデル化することが多い
- 用途
- 杭基礎や直接基礎の設計時に、地盤を弾性体とみなして応力解析を行う際に利用
- 床版や舗装の設計でも、地盤反力を考慮したモデル化を使うケースあり
支持力とは
支持力(bearing capacity)は、建物などの構造物を安全に支えられる地盤の能力を指します。
基礎を通じて加わる荷重が地盤の支持力を上回ると、過大変形や破壊が生じるリスクがあります。
- 特徴
- 基礎底面にかかる平均圧力、あるいは全荷重に耐えられる「地盤の限界強度」に近い概念
- 破壊モード(局部せん断破壊やパンチング破壊など)や地盤種別によって計算方法が異なる
- 地盤のせん断強度(c、φなど)や付着力、地下水位の影響を考慮して求める
- 用途
- 地盤の安定性を評価し、基礎底面積や杭の本数・長さなどを決定する際に重要
- 直接基礎の許容支持力、杭基礎の許容鉛直支持力などを算出して設計に反映
地盤反力と支持力の比較表
項目 | 地盤反力(Subgrade Reaction) | 支持力(Bearing Capacity) |
---|---|---|
意味 | 構造物が荷重をかけた際に地盤が発揮する押し返しの力 | 地盤が構造物を破壊せず支えられる最大の圧力または荷重 |
モデル化 | 弾性バネモデル(地盤係数 ×× 変位)で表現する | 破壊基準や許容応力に基づく力の限界値 |
設計での役割 | 変形解析や応力分布を把握する際に使用 | 地盤の安全性を評価し、基礎寸法や杭長を決定 |
応答対象 | 局所的な荷重・変形の関係をモデル化 | 地盤全体の破壊や大きな変形が起きるかどうか |
主なパラメータ | 地盤係数(k)など | 地盤のせん断強度(c、φ)、有効応力、飽和度など |
実務での活用例
- 直接基礎の設計
地盤反力は、基礎底の各ポイントで弾性的に想定し、スラブや梁の応力解析に活用します。一方、支持力は基礎全体の安全性評価に用いられ、許容地耐力(安全率を考慮した値)として設定されます。 - 杭基礎の設計
地盤反力モデルは、杭の側面や先端のバネ定数を設定して、水平抵抗や杭の沈下を解析する場面で使われます。杭の支持力は、地盤のせん断強度などから杭先端支持力と周面摩擦力を積算して評価します。 - 舗装や床版のたわみ検討
道路舗装や床版下の地盤をバネでモデル化し、走行荷重によるたわみや応力を解析します。この場面では地盤反力を使い、支持力は舗装下の地盤破壊リスクを評価する指標になります。 - 地盤改良工法の選択
支持力不足が原因で地盤改良が必要となった場合、支持力増大を目指す工法を選ぶことが多いです。同時に、改良後の地盤反力を考慮して、基礎の沈下予測や応力分散を計算します。
Q&A
Q1: 地盤反力は地盤の弾性係数だけで決まるのでしょうか?
A1: 地盤反力は、地盤の非線形性や粘性など多くの要因に左右されます。単純な弾性係数だけでなく、荷重速度や土の湿潤状態なども影響します。
Q2: 支持力と許容地耐力はどう違うのですか?
A2: 支持力は地盤が破壊しない最大限の力です。許容地耐力は、安全率を乗じて実際の設計で使う値を下げたものです。
Q3: 地盤反力が同じでも支持力が不足する場合はありますか?
A3: はい。地盤反力は主に変形挙動をモデル化する考え方で、支持力は破壊限界の評価です。変形が小さくても最終的な破壊が起きやすい地盤もあります。
Q4: 杭基礎の場合でも地盤反力を考慮するのですか?
A4: 水平抵抗や杭のたわみを解析する際に、杭周囲や杭先端にバネ定数を与える手法が一般的です。これも地盤反力モデルの一種です。
Q5: 地盤が軟弱な場合はどのように対応すればいいですか?
A5: 地盤改良や杭基礎などで支持力を高める方法が考えられます。同時に地盤反力を適正化するために、沈下量や荷重分散を検討する必要があります。
まとめ
地盤反力は、基礎が押し下げる力に対して地盤が押し返す「バネのような応答」を表し、主に変形解析や応力分布の把握に用いられます。一方、支持力は地盤が破壊しない範囲で支えられる最大荷重を示す概念で、地盤の安全性や許容圧力の評価に不可欠です。
この2つの考え方を適切に使い分けることで、建物の基礎設計や地盤改良の最適化が可能になります。
いずれにしても、地盤の挙動は単純なモデルだけでは把握しきれない場合も多いため、実際の設計では土質試験や解析ソフトウェアを駆使し、慎重に検討することが大切です。