山留めとは何か
建築や土木工事の現場では、地下空間や基礎部分を構築するために地盤を掘削しますが、その際に周囲の土砂が崩れたり、隣接構造物に影響を及ぼすことを防ぐために「山留め」と呼ばれる仮設の土留め構造が用いられます。
山留めは、掘削面を安定させ、作業空間の安全性を確保し、隣接地盤や建物を保護する重要な役割を果たします。
山留めが必要な理由
地下室や基礎梁の施工、下水道管路の敷設など、地盤を深く掘り下げる場面では、地中の土圧や地下水圧が作用し、掘削面は自然に崩壊しようとします。
山留めは、こうした土圧や地下水の影響を受けにくい形状・材料で掘削面を支持し、崩壊を防ぎます。適切な山留めを行うことで、工期短縮、安全性向上、品質安定に寄与します。
山留めの基本的な構造要素
山留めを構成する要素には、以下のようなものがあります。
- 壁材:H形鋼矢板、ソイルセメント壁、連続地中壁、鋼矢板などを用いて土を支えます。
- 切梁・腹起し:壁材同士を内側から押さえ、土圧に対して内側から反力を発生させる部材です。水平・斜材などで構成されることもあります。
- アンカー:地中へ定着させたアンカーボルトで山留め壁を外側から引張り、安定性を高めます。
- 腹起し材:壁材を連結し剛性を確保する梁要素。腹起しは内部空間で切梁や支保工を支えます。
山留め工法の種類
山留めには多様な工法があります。地盤条件、掘削深さ、周囲環境、コストなどを考慮して最適な工法を選定します。
- 鋼矢板式山留め:鋼矢板を打設し、切梁や腹起しで内部補強。浅い掘削や一般的な地盤で多用。
- 連続地中壁式山留め:コンクリートやソイルセメントで連続した壁を地中に構築。深い掘削や地下鉄駅建設など、大規模な地下空間で有利。
- ソイルセメント柱列壁式山留め:地盤改良機で土とセメント系固化材を混合し、連続的な柱列状壁を形成。軟弱地盤や止水性の確保が必要な現場で用いる。
- アースアンカー式:外側にアンカーを打設し、山留め壁を外部から引張ることで切梁を省略できる場合があり、内部空間確保が容易。
山留め工法の比較表
工法名 | 特徴 | 適用条件 | コスト・施工性 |
---|---|---|---|
鋼矢板式 | 鋼矢板を打設して切梁で支持 | 浅~中深度、一般地盤 | 中、施工性良好 |
連続地中壁式 | 地中でコンクリート壁形成、止水性・剛性大 | 深い掘削、地下鉄駅など | 高、特殊機械必要 |
ソイルセメント柱列壁式 | 土とセメント固化で壁形成、止水性確保可 | 軟弱地盤、止水要 | 中~高、固化材料コスト |
アースアンカー式 | アンカーで外側から引張り内部空間確保 | 広い用地、切梁削減可能 | 中~高、アンカー管理要 |
設計時に考慮すべき要因
山留め設計では、以下の要因を考慮します。
- 土圧・水圧:地盤物性や地下水位を調査し、計算上の土圧・水圧を求めます。
- 部材強度:H形鋼や矢板、コンクリート壁材の許容応力度や変形性能を確認し、設計荷重に耐えられる寸法・配筋量を決定します。
- 変形許容量:周辺建物や道路が過大な沈下や変形を起こさないよう、山留め壁のたわみや引張応力を抑制します。
- 工期・コスト:施工機械、工法特性、材料費、アンカー本数などを総合的に検討し、経済性や工程の最適化を図ります。
施工上の留意点
山留め工事では、施工精度や安全管理も重要です。
- 打設精度:鋼矢板やソイルセメント柱列を垂直かつ設計位置に正確に施工し、隙間や不陸を防ぎます。
- 止水対策:地下水流入があれば、止水材注入やシール材を用い水密性を確保します。
- 施工順序:地盤改良、矢板打設、アンカー施工、切梁設置など工程を綿密に計画し、崩落防止や工期短縮を図ります。
メンテナンスと撤去
地下構造物が完成したら、山留めは基本的に撤去します。ただし、連続地中壁など恒久構造物として利用する場合もあります。撤去時は周囲地盤の安定性を確認し、慎重な手順で行います。
残置する場合は、長期的な水密性や構造安定性を考慮し、モニタリングを実施します。
環境配慮と新技術
騒音・振動を低減するための低振動ハンマーや、泥水処理の適正化による環境負荷軽減も重要課題です。新たな材料(高強度鋼材、FRP補強材)、ICT活用による施工管理効率化、3Dモデルによる精緻な設計検討など、技術革新によって山留め工事も高度化しています。
Q&A
Q: なぜ山留めが必要なのですか?
A: 地盤掘削時に土砂が崩壊しないようにするためです。周囲構造物や道路を保護し、安全な作業空間を確保できます。
Q: どの工法を選べばよいのでしょうか?
A: 掘削深さ、地盤条件、止水要求、工期・コストなどを総合的に判断して選定します。専門家が地盤調査結果を踏まえ最適案を提案します。
Q: アンカー式と切梁式では何が違いますか?
A: 切梁式は内部空間に梁を設けて土圧に抵抗しますが、アンカー式は地中アンカーで山留め壁を外側から引張るため、内部空間を有効活用できます。
Q: 山留めは恒久的な構造になることがありますか?
A: 連続地中壁など一部工法は、後に地下外壁として恒久利用することがあり、その場合は長期耐久性や水密性の確保が重要です。
まとめ
山留めは地下空間の構築や基礎工事に欠かせない仮設土留め構造です。
地盤条件、掘削深さ、コスト、工期、止水性など多面的な要因を考慮して工法を選定し、適切な設計・施工を行うことで、安全かつ経済的な工事を実現できます。今後も新技術導入や材料改良、ICT活用により、山留め工事はさらなる品質向上が期待されます。