加速度応答スペクトルとは何か
加速度応答スペクトルは、地震波を受ける単自由度系モデルが各固有周期ごとに最大応答加速度を示した曲線です。
地震動は時間とともに変化する複雑な波形ですが、建物設計者は全ての時間履歴を直接扱うのは困難です。そこで、加速度応答スペクトルを用いれば、任意の固有周期をもつモデルが得る最大応答加速度を一目で把握できます。
建築物の固有周期は、建物高さ、剛性分布、質量分布によって異なります。低層建物は短周期(剛性が高い)で振動しやすく、高層建物は長周期で振動しやすい傾向があります。応答スペクトルは、これら異なる周期を持つ系が同一地震動に対してどの程度揺れ、最大加速度がどれほどになるのかを示す指針となります。
加速度応答スペクトルを用いる意義
- 設計の簡略化:地震波の時間履歴解析を行わずに、ある特定周期に対応する最大加速度を得られます。
- 構造特性把握:建物の固有周期を特定すれば、その周期における最大地震応答加速度が容易に求まり、部材設計や補強計画に役立ちます。
- 耐震性能評価:応答スペクトル曲線を用いることで、建物がどの周期域で強い地震動を受けやすいかを分析し、必要な耐震要件を明確にできます。
応答スペクトルの作成手法
応答スペクトルは、入力地震動(加速度時刻歴)を単自由度モデルに与え、減衰を考慮しながら各周期ごとに計算します。
例えば、減衰比5%を想定し、周期T=0.2秒、0.3秒、0.5秒…といったステップで、単自由度系の方程式を数値的に解き、最大応答値を抽出します。これをプロットすることで加速度応答スペクトルが得られます。
減衰と応答スペクトル
減衰比が大きいほど振動が速く収まるため、同じ地震波でも最大応答加速度は低くなります。
建築基準法や設計指針では、一般的に5%減衰を標準としていますが、制振ダンパーや粘性要素を持つ建物では有効減衰が増え、応答スペクトル上での要求加速度が低減します。
比較表:異なる条件での加速度応答スペクトルの傾向
条件 | 応答スペクトル傾向 | 主な要因 |
---|---|---|
短周期(低層)建物 | 短周期領域で高い加速度ピーク | 剛性が高く、高周波成分に敏感 |
中~長周期(中高層)建物 | 中~長周期領域で増幅が発生する場合がある | 建物高さ増加、固有周期が長くなる |
減衰比増加 | スペクトル全般で応答値低下 | エネルギー散逸が増え、振幅低減 |
入力地震動強度増加 | スペクトル全体が押し上がり最大応答加速度増加 | 地震入力加速度レベルの上昇 |
実務活用例
設計時、建物固有周期を見積もり、該当周期領域での加速度応答スペクトル値を読み取れば、求められる設計耐力がわかります。
耐震壁や柱・梁のサイズ、鉄筋量などをこの値に基づいて決定します。また、制振装置の有無による減衰比変化を考慮し、応答スペクトルを低減させられれば、補強計画を最適化できます。
設計規準と応答スペクトル
各国の耐震設計規準では、標準的な加速度応答スペクトル曲線が提示されています。これは観測記録や解析から得られた統計的な地震動特性を反映し、ある設計用地震動に対する建物の許容応答を制御します。
たとえば日本では、告示波や設計用地震動に基づくスペクトルが定められ、建築物の構造計算で使用されます。
効果的な減衰増加策
粘性ダンパーや制振壁を導入すれば、減衰が増し、応答スペクトル上で要求加速度が低減します。これにより、部材断面削減や鉄筋量軽減が可能となり、コスト削減や施工性向上が期待できます。
将来への展望
近年は地震観測網の発達や解析手法の高度化により、より精緻な応答スペクトルが得られつつあります。特定サイト特性や地盤条件を反映したスペクトルの策定が可能となり、より合理的な耐震設計が実現できます。
また、高層化・超高層化が進む都市環境で、長周期地震動への対応や免震・制振技術との連携が、より重要性を増しています。
Q&A
Q: 加速度応答スペクトルは地震波ごとに変わりますか?
A: はい。入力地震動特性(震源距離、地盤条件、地震規模)によってスペクトルは変化します。
Q: なぜ周期に着目するのですか?
A: 建物には固有振動数があり、周期が一致する周波数成分で揺れが増幅します。よって周期特性を考えることが重要です。
Q: 減衰比はどのように設定しますか?
A: 一般的には5%とする場合が多いですが、制振装置導入時は増加します。設計指針や実験結果で適切に選定します。
Q: 応答スペクトルから直接部材断面を決められますか?
A: 応答スペクトルは最大応答加速度の指標です。これを用いて必要強度を導き、そこから部材断面や配筋設計を行います。
まとめ
加速度応答スペクトルは、地震動に対する構造物の最大応答加速度を周期ごとに示した有用なツールです。これにより建物の固有周期領域での地震応答を簡潔に把握でき、耐震設計の指針となります。
減衰率や制振対策で応答を低減し、合理的かつ経済的な構造設計を実現します。今後も解析手法や地震観測データの蓄積により、より高度な応答スペクトルを用いた耐震設計が求められていくでしょう。