座屈とは?その基本的な意味
座屈(ざくつ、Buckling)とは、構造物が一定の荷重を受け続ける中で、ある限界点を超えると突然変形の様子が変化し、大きなたわみが発生する現象を指します。
この現象を引き起こす荷重を「座屈荷重」といい、構造物の剛性、形状、そして材料特性に大きく依存します。
座屈荷重は必ずしも材料の強度を超えるとは限らず、特に長柱では短柱に比べて低い荷重で座屈が起こる場合があります。
座屈の基本メカニズム
- 圧縮荷重を受ける柱に座屈が発生する条件:
- 荷重が座屈荷重を超える。
- 風圧などにより横方向の変形が発生。
- 構造の横剛性が変形を抑えられない場合。
以下に座屈の発生条件と挙動を整理しました:
荷重の状態 | 挙動 |
---|---|
荷重が座屈荷重以下 | 擾乱(じょうらん)を受けても構造は元に戻る(安定状態)。 |
荷重が座屈荷重 | 擾乱(じょうらん)による変形が元に戻らず、変形した状態で安定する(不安定状態の始まり)。 |
荷重が座屈荷重以上 | 小さな擾乱でも変形が急激に増大し、構造が倒壊する(破壊的座屈)。 |
座屈荷重と設計における重要性
座屈荷重 (\( P_{cr} \)) は、オイラーの式で次のように表されます:
\[ P_{cr} = C \frac{\pi^2 E I}{L^2} \]
ここで:
- \( C \): 端末条件係数
- \( E \): ヤング率
- \( I \): 断面2次モーメント
- \( L \): 柱の長さ
オイラーの式からも分かるように、座屈荷重は構造物の剛性や形状だけでなく、柱の長さ(細長比:λ)に大きく依存します。
座屈の種類
座屈にはさまざまな形態があり、それぞれの特徴と対処法が異なります。
力学的分類による座屈の種類
種類 | 特徴 |
---|---|
分岐座屈 | 荷重が増加すると平衡状態が分岐し、不安定状態に移行する。 |
飛び移り座屈 | 荷重-変位曲線の極値を超え、不安定経路を跳び越え別の安定状態へ移行。 |
建築における座屈の種類
種類 | 特徴 | 対策 |
---|---|---|
横座屈 | 背の高いH形断面梁がねじれながら横に倒れる。 | 横補剛材を配置し、ねじれを抑制する。 |
局部座屈 | フランジやウェブの圧縮部が波打つように変形。 | 幅厚比を調整し、局部剛性を向上させる。 |
座屈の設計時の注意点
完全弾性座屈
オイラーの式は、柱の応力が弾性限度内にある場合のみ適用可能です。
短柱では、弾性座屈が起こる前に材料が降伏するため、オイラーの式が適用できない場合があります。この場合、ランキンの式やジョンソンの式などの実験式を用います。
・ランキンの式
実験による材料定数に基づき、実際の設計で用いられる。
ランキンの式は次のように表されます:
\[ \sigma = \frac{\sigma_c}{1 + \frac{a \lambda^2}{C}} \]
ここで:
- \( \sigma \): 座屈応力
- \( \sigma_c \): 材料の許容引張応力
- \( a \): 材料による実験定数
- \( \lambda \): 細長比
- \( C \): 端末条件係数
・ジョンソンの式
細長比が比較的小さい柱に適用される
ジョンソンの式は次のように表されます:
\[ \sigma = \sigma_s \left(1 – \frac{\sigma_s}{4\pi^2 EC} \lambda^2 \right) \]
ここで:
- \( \sigma \): 座屈応力
- \( \sigma_s \): 材料の降伏応力
- \( E \): ヤング率
- \( C \): 端末条件係数
- \( \lambda \): 細長比
まとめ
座屈は構造物設計における重要な課題であり、特に圧縮荷重を受ける部材の剛性や形状が大きな影響を与えます。
- 座屈荷重を超える設計は避けるべき。
- 各座屈形式(横座屈、局部座屈など)に応じた対策を講じる。
- 短柱の場合は、塑性座屈も考慮した設計が必要。
これらのポイントを理解し、安全な構造設計に役立ててください。