UT(超音波探傷)検査とは?
建築分野で用いられる鉄骨などの溶接部には、高い品質と安全性が求められます。その品質確認手段の一つがUT(Ultrasonic Testing、超音波探傷)検査です。
UT検査は、超音波を利用して目視では確認できない溶接部内部の傷や割れなどの欠陥を検出する非破壊検査技術であり、鉄骨溶接部の品質管理に広く利用されています
対象を壊さずに内部の状態を調べられるため、構造物の信頼性確保に欠かせない試験です。また、日本建築学会の「鋼構造建築溶接部の超音波探傷検査規準」など公式基準も策定されており、重要な溶接継手の検査に活用されています
UT検査の原理
UT検査では、専用の探触子(超音波プローブ)から高周波の超音波パルスを溶接部に入射し、内部欠陥で反射して戻ってくるエコー波を捉えて欠陥の有無を調べます。
試験面には音響用の結合剤(カプラント)を塗布して超音波を効率良く伝播させます。超音波は材料内部を進み、異なる物質や空洞(欠陥)があればその境界で反射します。
欠陥が無い場合は超音波が底部まで届いてそこで反射しますが、途中に空洞や異物があると底部より手前で欠陥からのエコーが返ってきます
UT検査の手順
建築鉄骨の溶接部に対するUT検査では、探触子を垂直に当てる「垂直探傷法」と、一定角度で当てる「斜角探傷法」があります。溶接部はビードの盛り上がりがあるため真上から探触子を当てにくく、通常は45°程度の角度で音波を入射する斜角一探触子法(パルスエコー法)が用いられます
疑わしい大きなエコー指示を検出した場合、その発生位置(深さ)や溶接線方向の範囲を記録します。
UT検査の判定基準
UT検査では、検出された欠陥指示が許容範囲かどうかを基準に従って判定します。例えば、日本建築学会の規準では、欠陥からのエコー高さが所定の基準線(L線)を超え、なおかつそのエコーが溶接線に沿って一定長さ以上連続した場合に、その欠陥を評価対象とします
さらに、最も欠陥が集中する300mmの単位溶接線内で、そのような欠陥(または近接する複数欠陥)の長さが規定値を超えると、その溶接部はUT検査で不合格(要補修)と判定されます
逆に言えば、基準を下回る小さな欠陥指示は構造上問題ないものとみなされます。
UT検査のメリット・デメリット
メリット:
- 構造物を破壊せずに内部欠陥を検査できる(非破壊検査である)。
- 放射線を使用しないため作業時の安全性が高い。
- 検査装置が小型で持ち運びやすく、現場で即時に結果を得られる。
- 欠陥の深さ位置やおおよその大きさを測定でき、内部の健全性把握に有用。
デメリット:
- 欠陥の形状や向きによっては検出が難しい場合がある(音波と平行な面状欠陥など)。
- 検査には高度な技能と経験が必要で、結果の解釈が検査員に依存しやすい。
- 検査面の状態に注意が必要(表面が粗い場合や塗膜がある場合は事前処理が必要)。
- 粗粒な材料(鋳造品など)ではノイズが大きく適用が難しい。
他の非破壊検査法との比較
溶接部の品質確認にはUT以外にもさまざまな非破壊検査(NDT)法が用いられます。例えば、表面欠陥の検出には浸透探傷試験(PT)や磁粉探傷試験(MT)が、内部欠陥の検出には放射線透過試験(RT)や超音波探傷試験(UT)が適しています。
各手法の特徴は異なるため、検査目的に応じて使い分けられます。
以下に主な検査方法の特徴を比較します。
検査方法 | 検出対象欠陥 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
超音波探傷試験(UT) | 内部欠陥(割れ、融合不良など) | 内部欠陥を非破壊で検出できる。放射線不要で安全。 | 高度な技能が必要。平行な欠陥は検出困難。 |
放射線透過試験(RT) | 内部欠陥(気孔、クラック等) | 欠陥の画像記録が可能。球状・体積欠陥の検出に優れる | 放射線管理が必要。装置や撮影に時間・コストを要する。 |
磁粉探傷試験 (MT) | 表面・表面近くの欠陥(表面割れ等) | 微細な表面欠陥も可視化できる。装置が比較的簡易。 | 磁性体にのみ適用。事前清掃や後の脱磁処理が必要。 |
浸透探傷試験 (PT) | 表面開口欠陥(割れ、ピンホール等) | 材質を問わず表面欠陥を検出可能。比較的簡便に実施できる。 | 開口した欠陥しか検出できない。洗浄など前後処理に手間がかかる。 |
目視試験(VT) | 表面の外観上の欠陥(溶接割れ、ビード形状不良等) | 最も簡易な検査で即時に実施可能。全数検査にも適用しやすい。 | 内部欠陥は検出不可。人の視覚に依存し精度に限界がある。 |
Q&A
Q1. UT検査ではどんな欠陥を検出できますか?
A1. 溶接部内部の各種欠陥を検出できます。例えば、溶接の融合不良や溶け込み不足、内部の割れ(クラック)、スラグ巻き込みなどがUT検査で発見可能な代表例です。
これらは外から見えない欠陥ですが、UT検査により位置や大きさを把握できます。
Q2. UT検査とX線検査(RT)は何が違いますか?
A2. UT検査は超音波を使い、その場で結果が分かる安全な方法です。一方、X線を用いるRT(放射線透過検査)は放射線管理が必要ですが、フィルムやデジタル画像に欠陥の形を記録できます。それぞれ得意分野が異なり、UTは金属内部の割れや組織不良の検出に優れ、RTは気孔など体積的な欠陥の検出や記録に優れています。
Q3. UT検査を実施するには資格が必要ですか?
A3. はい。一般にUT検査は専門の資格を持つ検査技術者が行います。日本では「非破壊試験技術者(UT)」などの資格を取得した者が検査を担当することが多く、高度な専門知識と技能が要求されます
Q4. 建築現場ではいつUT検査を行いますか?
A4. 主に溶接施工後に行います。建築物の重要部位では「完全溶け込み溶接」が施工され、溶接完了後に所定の非破壊検査としてUT検査が実施されます。
溶接部の冷却・清掃を経てから検査し、必要に応じて補修・再検査を行うことで品質を確保します。また、既存構造物でも定期点検で重要な溶接箇所にUT検査を行う場合があります。
Q5. UT検査で不合格(欠陥あり)となった場合はどうなりますか?
A5. 検査の結果、基準を超える欠陥が見つかった場合、その溶接部は補修(手直し溶接)の対象となります。欠陥部分を除去・再溶接し、再度UT検査などで欠陥がなくなったことを確認します。
合格となるまで適切な処置と再検査を行い、最終的に溶接部の品質を保証します。
まとめ
UT(超音波探傷)検査は、建築構造物の溶接部の品質を保証し、安全性を確保するために重要な非破壊検査手法です。内部欠陥を検出できるという大きな利点がありますが、他の検査法との併用や熟練した技術者の判断も欠かせません。
本記事で解説したように、それぞれの検査手法の特性を理解し適材適所で活用することで、構造物の信頼性向上につながります。