保有耐力横補剛とは?重要な理由、設計のポイント、Q&Aを元に解説!

保有耐力横補剛とは、建物が大地震などによる大きな水平力を受けた際に、部材の横座屈や捻じれ変形を抑えるための補強方法です。

特に鋼構造の梁や柱のウェブやフランジが圧縮力を受ける場合、横方向の補剛が不十分だと座屈リスクが高まり、構造の安定性を損なう恐れがあります。

保有耐力横補剛は、部材全体が塑性域に入ったとしても十分な耐力を発揮し続けられるようにするための設計思想の一つです。

なぜ保有耐力横補剛が重要か

  1. 塑性域に達したときの挙動
    弾性範囲では梁や柱の横座屈はそれほど問題にならないケースもありますが、塑性化が進むと局部的なひずみ増大により、座屈が生じやすくなります。
  2. 部材の靭性確保
    大地震時には、部材が降伏を超えてある程度の塑性変形をすることでエネルギーを吸収します。横補剛が不十分だと、塑性化に伴う座屈で耐力が急激に低下してしまい、倒壊に至るリスクが増します。
  3. 全体崩壊の防止
    部材が座屈を起こすと、構造全体にかかる応力分布が著しく乱れ、フレームの崩壊機構が予期せぬ形で進む恐れがあります。横補剛により安定した塑性化を誘導し、崩壊を回避します。

保有耐力横補剛におけるポイント

  1. 配置計画
    梁や柱の長手方向に一定の間隔で補剛材を設け、座屈長さを短縮します。補剛位置が適切でないと、かえって不整合が生じる場合があるため要注意です。
  2. 剛性の確保
    補剛部材自体に十分な曲げ剛性やせん断剛性がないと、座屈の抑止効果が十分に発揮されません。断面形状や接合方式を吟味し、剛性不足にならないようにします。
  3. 部材同士の連結
    H形鋼や箱形断面の梁・柱では、フランジやウェブと補剛材をしっかり連結することで、座屈の生じやすい平面を固定し、座屈モードを高いレベルで防ぎます。
  4. 接合部の剛性
    保有水平耐力設計において接合部が弱いと、せっかく補剛を施しても接合部破断が先行してしまうことがあります。接合部の溶接やボルト接合の強度、降伏後の粘り強さが不可欠です。

他の補剛と保有耐力横補剛の比較表

種類目的適用範囲特徴注意点
水平ブレース水平荷重に対するフレームの補剛柱と梁の間などに配置剛性を高め、変形を抑制開口の確保や居住性との兼ね合い
垂直ブレース垂直面における水平力に対する補強建物のコア部分や壁面剛芯を確保しやすい意匠とのバランス、開口部設計に影響
保有耐力横補剛塑性化時の座屈防止・耐力維持主に梁や柱のフランジ付近塑性域でも部材強度を保ち倒壊を防ぐ補剛材の配置や接合部の剛性が重要
局部補剛ウェブやフランジの局部座屈防止ウェブ補強リブなど部分的局部剛性を上げて座屈や変形を最小限にする全体との一貫性、スポット的な効果の限界

保有耐力横補剛の具体的なアプローチ

  1. フランジ補剛材の追加
    H形鋼のフランジ部分が圧縮力を受けると、バタつきや捻れが生じやすいです。これを防ぐために、フランジ裏に補剛板を取り付けることで面外変形を抑えます。
  2. ラテラルブレースの配置
    大スパン梁の場合、梁の中間部分に水平方向のブレース(ラテラルブレース)を設けることで、座屈長さを短くし、座屈荷重を高めます。
  3. スチフナの活用
    ウェブの局部座屈を防ぐために、スチフナを溶接して剛性を向上させます。これにより、塑性化しても座屈せず粘り強く耐えられる状態を保つことが可能です。
  4. 接合部の強化
    保有耐力横補剛と合わせて、梁の塑性ヒンジが梁端部近くで形成されるよう接合部を強化することが多いです。接合部が先に破断しないよう、溶接やボルトの設計を見直します。

Q&A

Q1: 保有耐力横補剛はすべての梁や柱に必要ですか?
A1: 必ずしも全てに適用するわけではありません。部材の長さや応力状態、大地震動想定などに応じて必要な箇所を厳選します。

Q2: RC造でも保有耐力横補剛は考慮しますか?
A2: 主に鋼構造での検討が多いですが、RC造でも耐震壁や梁の座屈を防ぐために補強筋やスチフナ的な要素を配置する概念は類似します。

Q3: この補剛を加えた場合、建設コストはどれくらい上がりますか?
A3: 補剛材や追加溶接が必要になるためコスト増がありますが、大地震時の倒壊リスク低減による補修費や機能停止リスクの削減効果を考慮すると総合的にメリットが大きいとされています。

Q4: ラーメン構造で保有耐力横補剛を行う場合、設計は難しくなりますか?
A4: 接合部のモデル化や塑性ヒンジの位置計画などが複雑化するため、非線形解析や詳細設計が必要になります。ただし高度な耐震性能を得られます。

Q5: 実際の施工で注意するポイントは何でしょうか?
A5: 補剛材の寸法や溶接長の不適切な施工は機能を損ないます。施工精度の確保と現場監理が重要です。

まとめ

保有耐力横補剛は、梁や柱が塑性域に達しても座屈せず、粘り強く水平力に耐え続けるための設計手法です。

大地震を想定した耐震設計では、部材単体の強度や剛性だけでなく、部材同士の結合や局部座屈防止策が不可欠となります。

フランジやウェブに追加する補剛材やラテラルブレース、接合部の強化などのアプローチで、地震エネルギーを塑性域で吸収し、倒壊リスクを大幅に低減できます。

安全とコストのバランスを取りながら、最適な保有耐力横補剛を施すことが、今後の耐震技術においてますます重要になるでしょう。