スチフナ(stiffener)は、鋼構造の梁や柱、あるいは板要素などが局部座屈や変形を起こさないように補強する部材です。
特にウェブ(梁の中央部分)やフランジ(梁の上下の水平部分)が薄い場合や大きな荷重を受ける場合に用いられ、剛性と強度を高める役割を果たします。
スチフナを適切に配置することで、構造物全体の安定性が向上し、過剰な材料使用を抑えた経済的な設計が可能となります。
スチフナの種類
スチフナには、取り付ける位置や用途によりいくつかの分類があります。
大きく分けると以下のようなタイプが挙げられます。
- 横方向スチフナ(横リブ)
ウェブを横断するように取り付ける補剛材で、せん断力や集中荷重に対抗する際に有効です。梁や桁のウェブ面内の座屈を防ぎ、局部的な変形を抑えます。 - 縦方向スチフナ(縦リブ)
ウェブ方向(梁の長手方向)に取り付けることで、大きな曲げモーメントを受ける際や高い座屈強度を確保したい場合に有効です。横リブより少ない本数で済むケースもありますが、レイアウト設計が難しい場合もあります。 - ブロック補剛(ブロックスチフナ)
特定のポイント(例えば梁の支点付近や集中荷重点付近)において、大きな圧縮力やせん断力が集中する箇所を重点的に補強するためのスチフナです。単なるリブではなく、ブロック状の補剛板を溶接する形で形成されることが多いです。 - エッジスチフナ(端部補剛材)
板要素の端部に取り付け、端部からの座屈伝播を抑えます。波形鋼板や箱形断面の閉断面など、薄板を用いる場合にエッジ部分の剛性を高める手段として採用されます。
スチフナを設計する理由
スチフナを設計・配置する最大の理由は、座屈やローカルなひずみを防ぎ、想定どおりの荷重支持力を確保することです。
薄肉化によって材料を節約すると、局部座屈が発生しやすくなります。スチフナを配置すれば、局所的に剛性を補強し、構造物の全体強度と剛性を向上できます。
- 座屈防止
薄いウェブやフランジは圧縮力を受けると座屈しやすい特性があります。スチフナを付けることで、各区画を小分けにし、座屈長さを短くできます。 - 応力分散
大きな応力が一部分に集中すると、そこが先に塑性化(変形)し破断を起こしやすくなります。スチフナで剛性を持たせれば、応力がより均等に分散されます。 - 局部変形の抑制
荷重ポイントや支持点付近は集中荷重が加わるため、ウェブが大きく変形しやすいです。スチフナを入れてウェブが座屈しないように抑えます。
スチフナの配置方法
設計者は、どこにスチフナを配置するかを判断する際、以下のような要素を考慮します。
- せん断力分布
梁の場合、支点付近で大きなせん断力が発生しやすいため、その近傍に横リブを設けることが一般的です。必要に応じてピッチ(間隔)を詰めて配置します。 - 曲げモーメント分布
梁の中央付近は曲げモーメントが最大になる傾向があるため、たとえばフランジに大きな圧縮力が生じる際に、縦方向スチフナを適切に配置しておくことで座屈を防ぎます。 - 集中荷重点や合流部
ブロック補剛や端部補剛が必要な場所として、柱との接合部、梁端部、荷重吊り点など応力が集中する箇所が挙げられます。 - 建築・設備的制約
スチフナは補剛効果がある一方で、内部配管や配線スペース、意匠上の都合などに影響する可能性があります。構造性能を最優先しながらも、他の専門部署と連携し配置を工夫します。
スチフナの比較表
ここではスチフナの種類や特徴を比較してみます。
種類 | 取り付け方向 | 主な目的 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
横方向スチフナ(横リブ) | ウェブを横断 | せん断力の抵抗、局部座屈の抑止 | 施工が比較的簡単 効果がわかりやすい | ピッチ(間隔)の検討が複雑な場合あり |
縦方向スチフナ(縦リブ) | 梁に沿った方向 | 圧縮フランジの座屈防止、剛性アップ | 数を減らしやすい 大きな曲げモーメントに対応 | 取り付けが難しい箇所がある |
ブロック補剛 | 特定ポイントの集中 | 荷重集中部の補強 | 構造安全性が高まる 局部的に大きな応力を分散 | 溶接部が大きくなり、施工コストが高くなる |
エッジスチフナ | 板要素の端部 | 端部座屈の防止、端部剛性の向上 | 薄板の端部補強に有効 波形鋼板などで多用 | 周囲との干渉や配置スペースを考慮要 |
設計における数式の一例
スチフナを検討するうえでは、設計規準や応力解析に基づいて必要な板厚や断面積を算出することが重要です。
たとえば、ウェブの局部座屈を回避するために、部材の縦横比や圧縮応力の許容量をチェックします。ここでは、あくまでイメージとして簡単な不等式例を示します。
\[ \sigma_{\text{web}} \leq \sigma_{\text{cr}} \] \begin{array}{ll} \text{ここで:} & \\ \sigma_{\text{web}} & : \text{ウェブが受ける局部圧縮応力(N/mm²)} \\ \sigma_{\text{cr}} & : \text{設計基準に基づく臨界圧縮応力(N/mm²)} \\ \end{array}
スチフナを取り付けることで、ウェブの有効長さが小さくなり、臨界座屈応力σcrを引き上げる効果があります。
これにより、設計上の安全率を確保できます。
スチフナの施工時の注意点
- 溶接順序
スチフナを溶接する際、熱による歪みが局所的に発生しやすいです。溶接順序や方法を工夫し、最終的に部材が大きく変形しないように留意します。 - ミスアライメント(位置ずれ)
スチフナが正しい位置・角度に取り付けられないと、期待する剛性や強度を発揮できません。取り付けジグや精密測定器具を用いた正確な施工が不可欠です。 - 腐食対策
スチフナとウェブの間に水や汚れが溜まりやすい形状になっていると、腐食が進行しやすいケースがあります。メンテナンス計画を考慮した排水・塗装処理を行います。 - 後付けスチフナ
既存構造の補強でスチフナを追加する場合、既存部材の切削や溶接状況を慎重に検討します。既存部材の疲労リスクや熱影響を適切に評価したうえで施工します。
Q&A
Q1: スチフナとブレースは同じものですか?
A1: 違います。スチフナは板要素などの局部座屈を防止する補剛材で、ブレースはフレーム全体の水平力に抵抗する斜材のことです。機能や目的が異なります。
Q2: スチフナの溶接は必ず全周溶接ですか?
A2: 部材の設計条件によっては隅肉溶接や間隔溶接にすることもあります。ただし、せん断力や圧縮力が大きい場合、全周溶接でしっかり接合するのが一般的です。
Q3: スチフナをたくさんつければ安全度は上がりますか?
A3: 多くの場合、必要最小限の配置が望ましいです。過剰に増やすと溶接コストがかさむうえ、溶接変形などの不具合が生じるリスクも高まります。
Q4: スチフナは厚いほど良いですか?
A4: 厚みによって剛性は上がりますが、重くなる分だけコストや溶接量が増えます。設計上の最適厚さを検討し、バランスをとることが大切です。
Q5: スチフナを後から追加するのは難しいでしょうか?
A5: 既存部材への溶接や干渉物の有無などの課題はありますが、不可能ではありません。構造補強としてスチフナを追加する事例は多く存在します。
まとめ
スチフナは、薄肉化が進む鋼構造において局部座屈や局所的な破損を防ぎ、全体の構造安全性と経済性を両立する要となる補剛材です。
横方向や縦方向、ブロック補剛など種類や配置パターンは多岐にわたり、それぞれが対応する応力や施工条件によって最適な配置が変わります。
溶接順序や腐食対策などの施工面にも配慮しつつ、必要最小限の補剛材で最大の効果を得るための工夫が重要です。スチフナの適切な活用は、鉄骨建築の品質と耐久性を高める大きなポイントとなるでしょう。