閉断面と開断面は、構造部材の断面が「閉じている」か「開いている」かによって分類される概念です。
一般的に、パイプや角パイプなど周囲が完全に囲まれた形状を「閉断面」、H形鋼やC形鋼、L形鋼など隙間がある形状を「開断面」と呼びます。断面の形状が異なることで、曲げ剛性やねじり剛性、施工性に影響が出ます。
今回は、建築や土木分野でよく取り上げられる閉断面と開断面の違いについて、体系的に解説します。
閉断面の特徴
閉断面の代表例として、円形鋼管や角形鋼管などがあります。断面が完全に囲まれており、外から見ると一続きの形状をしているのが大きな特徴です。
- 曲げやねじりに強い
閉断面では、全周がつながっているため、ねじれが加わった際に断面全体で抵抗できます。結果的に、開断面と比べてねじり剛性が高く、偏心荷重がかかる場面でも安定した性能を期待できます。 - 軽量かつ高剛性を実現しやすい
同じ断面積でも、閉断面にすることで断面二次モーメントが大きくなりやすく、曲げ剛性も向上しやすいです。そのため、必要以上に肉厚を増やさなくても所定の強度を確保しやすいメリットがあります。 - 内部へのアクセスが難しい
閉断面は部材内側が空洞になるため、溶接やメンテナンスが必要な場合は外部からの作業が制限されがちです。配管や補強材を通す場合にも工夫が求められます。 - 腐食管理
閉断面内部に水や湿気が入ると、錆びが内部に蓄積しやすい懸念があります。防食処理や排水対策を十分に講じることが大切です。
開断面の特徴
開断面は、H形鋼やC形鋼、L形鋼、T形鋼など、部材の周囲が一周していない断面形状を指します。
フランジやウェブが外部に露出しているため、断面の一部が「開いている」状態です。
- 加工や接合がしやすい
部材の内側へ直接アクセスできるため、溶接作業やボルト接合の実施が容易です。また、補強材の取り付けや後付けの改修工事にも対応しやすい特徴があります。 - ねじり剛性が低い
開断面はねじりに対して弱く、偏心荷重を受けると大きくねじれてしまう可能性があります。長スパンの梁や風荷重を受ける屋外構造では、座屈やねじりの対策が必須です。 - コストパフォーマンス
同じ素材量で考えた場合、閉断面よりも断面二次モーメントが小さくなることが多いです。一方、加工のしやすさや一般的な流通量の多さから、比較的安価かつ入手しやすい点が挙げられます。 - 清掃や点検が容易
内部が開放されているため、汚れや錆びの点検がしやすく、維持管理の負担を下げる場合があります。ただし、外気や雨水に触れやすい形状の場合、塗装の剥がれや錆びの進行にはこまめな対処が必要です。
閉断面と開断面の比較表
項目 | 閉断面 | 開断面 |
---|---|---|
代表的形状 | 円形鋼管、角形鋼管など | H形鋼、C形鋼、L形鋼、T形鋼など |
ねじり剛性 | 高い | 低い |
曲げ剛性 | 断面二次モーメントを大きく取りやすい | 同じ断面積の場合やや劣る |
製作・加工性 | 内部へのアクセスが制限される | 溶接・ボルト接合など比較的容易 |
防錆・維持管理 | 内部錆び対策が必要 | 外気に直接触れるため塗装管理が重要 |
主な用途 | 大スパントラス、橋梁、地中梁や支柱 | 柱・梁・建築骨組み、補強用など幅広い |
コスト | 加工費や防食コストが大きくなる場合あり | 流通量が多く比較的安価 |
設計上の注意点
閉断面と開断面のどちらを採用するかは、構造上の要求性能だけでなく、施工条件やメンテナンス計画、コストなど多角的に検討する必要があります。
- ねじり剛性の必要性
横風や地震動、偏心荷重などでねじりが生じる可能性が高い部材には、閉断面が有利なケースが多いです。一方、ねじりに対して大きな抵抗が不要な構造部材では、開断面で十分という判断もあります。 - 製造・加工プロセス
閉断面は一体成形や溶接で成形する場合が多く、内部の溶接部を検査しにくい課題があります。開断面は部材自体の形状が標準化されており、加工しやすく流通量が豊富です。 - 維持管理
地下や海岸地域など腐食リスクが高い環境では、閉断面内部の防食が非常に重要です。開断面は清掃や再塗装がしやすい利点がありますが、そのぶん外気に触れる面積が多く、塗装の劣化にも注意が必要です。 - コストバランス
材料費や加工費、保守費を含めたトータルコストを把握し、長期的にみてどちらが優位かを判断します。大スパンの橋梁などでは閉断面がメインに採用される一方、小~中規模の梁や支柱では開断面が選ばれやすいです。
Q&A
Q1: 閉断面の内部に配管を通したい場合はどうすればよいですか?
A1: あらかじめ開口部を設けるか、複数ピースで組み立てる方式を検討します。ただし溶接部の品質や防錆対策に注意が必要です。
Q2: 開断面は薄肉になると座屈しやすいのですか?
A2: はい、薄肉化すると局部座屈やねじり座屈が起こりやすくなります。補剛材を追加するなどの設計的工夫が欠かせません。
Q3: 橋梁に多く使われるのはどちらでしょうか?
A3: 大きなねじり剛性が求められる場合、閉断面が多用されます。桁橋で比較的短いスパンなら開断面の使用例もあります。
Q4: 住宅の梁に閉断面を使うメリットはありますか?
A4: 住宅規模では開断面のH形鋼やC形鋼が用いられるケースが大半ですが、ねじり荷重が大きい特殊な構造であれば閉断面を検討することもあります。
Q5: 開断面でねじり強度を上げるにはどうすればいいですか?
A5: ウェブに補剛板を入れたり、フランジを厚くしたり、ブラケットで補強するなどの設計が考えられます。
まとめ
閉断面はねじりや曲げに対して強く、高い剛性を確保しやすい一方、加工・メンテナンスには手間がかかる面があります。
開断面は取り扱いやすくコストも抑えやすい反面、ねじり剛性が低いなどの弱点を補う必要があるかもしれません。
大きなインフラから住宅規模の建物まで、構造部材として両者が選択される場面は多岐にわたります。設計段階で要求性能や施工条件、維持管理コストなどを総合的に見極めることで、最適な断面形式を選べます。