都市計画や商業施設計画で、歩行者空間を拡充しつつ、魅力ある街なかを形成する方法として「モール化」という概念があります。モール化とは、道路区間を歩行者主体の空間に変えることで、快適な歩行やショッピング体験を促進する取り組みです。
代表的なモールの形態として「フルモール」「セミモール」「トランジットモール」があります。
これらは、自動車交通や公共交通の扱い方が異なり、それぞれの都市特性や商業ニーズに合わせて採用が検討されています。
フルモールとは
フルモール(Full Mall)は、モール区間から一般車両の通行を原則として完全に排除し、歩行者専用道路とする方式です。
すなわち歩行者だけが自由に往来できる空間を創出し、車の騒音・排気ガス・交通事故リスクなどを取り除くことで、ショッピングや観光に優しい環境を実現します。
- 自動車の扱い
- 一般車両・公共交通含めすべて乗り入れ禁止が基本。荷捌きや緊急車両など特定ケースだけ許可されることもあります。
- 歩行者空間の魅力
- 車の往来がゼロになるため、広い歩道やベンチ、緑化などを充実させられます。カフェのテラス席やイベントスペースを設置しやすいです。
- 導入課題
- 店舗への荷物搬入時間などを限られた時間帯に限定する必要があり、商業者や近隣住民との調整が必要です。
- 周辺道路の交通渋滞や代替経路の確保が課題になります。
セミモールとは
セミモール(Semi Mall)は、歩行者が主役の空間を確保しつつ、一部の車両(公共交通や緊急車両、配送車など)を限定的に認める形態です。
フルモールより自動車交通を厳しく制限しない一方、歩行者空間を十分に確保することで、車両と歩行者の共存を図ります。
- 自動車の扱い
- 基本的に車道は狭められ、低速走行を強制する仕組みが敷かれる。路面標示や車止め、路肩植栽などで歩行者優先を明確化。
- 公共交通や配送車を時間制限付きで走らせるなどの運用を行うケースが多いです。
- 歩行者空間の魅力
- 自動車排除の徹底度はフルモールほどではないが、それでも車は通行量が少なく、歩行者に配慮された街路デザインが可能です。
- 導入課題
- 車両進入を一部認めるため、速度や駐停車などの規制徹底が欠かせません。歩行者との接触事故リスクに十分配慮する必要があります。
- 車両制限による一時的な渋滞や抜け道としての不正通行をどう防ぐかが課題となります。
トランジットモールとは
トランジットモール(Transit Mall)は、路面電車やバスなど公共交通機関のみをモール区間に通せるようにして、一般車両を締め出し、歩行者と公共交通が共存する歩行者空間を形成する方式です。欧米の事例では路面電車と歩行者が同じ空間にあり、電車が低速で通行する形態が一般的です。
- 自動車の扱い
- 私有車の通行を禁止し、路面電車やバスなどの公共交通のみが走行。緊急車両や配送車は時間帯で限定的に乗り入れる仕組みもあります。
- 歩行者空間の魅力
- 車両は公共交通だけなので通行量が少なく、騒音や排気ガスのストレスが低い。電車やバスを軸にしたまちづくりが可能です。
- 欧米都市では中央に路面電車の線路が敷かれ、両サイドを歩行者空間とする例が多いです。
- 導入課題
- 路面電車やバスの導入にはインフラ整備コストが大きく、需要予測や採算性が課題。
- モール区間外との接続や乗降場整備、運行ダイヤなど公共交通運営主体との調整が不可欠。
比較表(フルモール、セミモール、トランジットモール)
項目 | フルモール | セミモール | トランジットモール |
---|---|---|---|
自動車通行 | 原則全面禁止 | 一部の車両のみ許可 | 公共交通のみ通行(一般車禁止) |
歩行者利便性 | 非常に高い | 比較的高い | 公共交通と共存、利便性良好 |
運搬・緊急車両 | 例外的に時間制限 | 一部時間に許可 | 基本不可(緊急/配送は例外) |
導入難易度 | 周辺迂回路確保が必要 | 運用ルール徹底が大事 | 公共交通の整備や運営主体との調整必要 |
導入メリット
- 街の回遊性向上
- 歩行者が安心してゆっくり歩ける空間は回遊性が高まり、店舗や観光施設への集客効果を見込めます。
- 環境負荷低減
- 自動車を制限することで排気ガスや騒音が大幅に減少し、街の快適性・景観が向上。路面電車中心のトランジットモールならCO₂排出も抑えやすいです。
- 安全性アップ
- 歩行者と車が物理的・空間的に分離されるフルモールでは交通事故リスクがほぼなく、安心して散策できます。
- 地域活性化
- 歩行者がゆったり楽しめる商店街やイベントスペースを活用すれば、新しい文化や経済活動が盛り上がります。
デメリット・課題
- 周辺道路への影響
- 車が通れなくなった分、他の道路に交通が集中して渋滞を引き起こす可能性があります。適切な交通計画が欠かせません。
- 住民・店舗への配慮
- 配送時間の制限や車両進入規制によって、物資の搬入や高齢者・障害者のアクセスに課題が生じる場合があります。
- 公共交通の整備費用
- トランジットモール導入では、路面電車やバス専用レーンなど大規模インフラ投資が必要となり、費用負担と採算性が懸念されます。
- 合意形成の難しさ
- 商店会や地元住民、通過車両利用者など、多様な利害関係者と折衝・協議する必要があり、長期的な調整が不可避となります。
メンテナンスと寿命
モール化された道路は、車道を大きく改造するケースが多いため、舗装材や街路施設、植栽などのメンテナンスコストが継続的に発生します。
歩行者空間を常に美しく保つには清掃や破損箇所の修復、イベント利用後の原状回復などが不可欠です。
また、管理主体(自治体や商店街組合など)による定期的な点検や、防災対策(避難ルート、消火栓の配置)にも配慮しなければなりません。段差解消やバリアフリー整備を含め、モール空間を長期的に活用するための計画が重要となります。
環境・サステナビリティ
自動車交通を制限し、人中心の街並みに変える取り組みは、CO₂削減だけでなく、騒音・排ガス・交通事故の削減といった効果も期待されます。
また緑化を進めればヒートアイランド現象の緩和にも寄与し、都市環境の質向上に大きく貢献します。
さらにトランジットモールでは公共交通利用が促進され、都市部の渋滞緩和や全体的な交通エネルギー消費の削減も図れるため、持続可能な都市づくりと相性がよいです。
今後の展望
日本でも、都市中心部の再生や観光振興の一環で歩行者空間拡充が注目されています。
欧州の成功事例(フルモールやトランジットモール)に学びつつ、各都市の特性に合わせたセミモールの導入も活性化しそうです。大規模イベントや国際スポーツ大会などを機に、一時的に車を締め出す社会実験を行い、その成果を恒久施策へ繋げる試みが増えています。
AIなどの高度な交通シミュレーションで迂回路や公共交通連携を設計しながら、より快適でエコロジカルな街づくりが推進されるでしょう。
Q&A
Q: フルモールはなぜ導入が難しいのですか?
A: 自動車通行を完全禁止するため、周辺道路への交通集中や荷捌き規制が生じ、住民・商業者・ドライバーの合意形成が大きな課題となります。
Q: トランジットモールが日本で少ないのはなぜですか?
A: 路面電車やバス専用道路を設けるには大掛かりなインフラ整備が必要で、中心市街の構造や財政面でハードルが高いからです。
Q: セミモールは歩行者・車どちらにもメリットがありますか?
A: そうです。車の通行がゼロではないため物流や緊急車両対応がしやすく、歩行者も優先度が高まる形で安全性と利便性を両立しやすいです。
Q: こうしたモール化による商業効果は実際あるのでしょうか?
A: 欧米や日本国内の事例では、歩行者の回遊性向上やイメージアップにより商店街の売上増を実現しているケースが少なくありません。ただし立地条件や施策運営次第です。
まとめ
フルモールは完全歩行者専用化、セミモールは一部車両を許容、トランジットモールは公共交通のみ通行可能という違いがあります。
いずれの方式も街の回遊性・魅力向上や交通事故低減が期待される一方、導入には住民・商業者との合意形成や周辺道路の交通処理が課題です。
未来の持続可能なまちづくりに向けて、各都市の実情に合ったモール形態を選び、公共交通や歩行者空間を充実させる施策がますます求められています。