加速度は物体の速度が変化する度合いを示す物理量で、国際単位系(SI)では m/s2(メートル毎秒毎秒)が標準的な単位として使われます。
しかし、地震工学などでは「gal(ガル)」という加速度の単位がよく用いられます。galは、1 gal = 1 cm/s2を意味し、重力加速度g≈9.8 m/s2が約980 galになるという関係があります。地震計の観測値や地震動の記録では、加速度をgal表記で示すケースが多いです。
本記事では、加速度単位におけるgalの特徴や由来、SI単位系との関係、地震観測での使い方などを体系的に解説します。
なぜgalが用いられるのか
- 歴史的背景
- 1 gal = 1 cm/s2という小さい単位は、重力加速度を基準に考えると分かりやすい上、実際の地震動が数百gal~千gal程度になることが多いため、数値の取り扱いが便利です。
- 地震観測との親和性
- 地震波の加速度レベルが100 gal, 200 gal, 500 galなどと表記されるのが慣例的に定着しています。地震の規模や建物被害との相関関係を把握しやすいためでもあります。
- 単位換算が容易
- 1 m/s2=100 gal、9.8 m/s2≈980 galという具合に、SI単位系との比較や換算もしやすいです。
galとm/s2の比較
項目 | gal (cm/s2cm/s2) | m/s2m/s2(SI単位) |
---|---|---|
定義 | 1 gal = 1 cm/s2cm/s2 | 1 m/s2m/s2 |
主な使用分野 | 地震動観測、地震工学、地質調査 | 一般的な物理・工学 |
代表的な値(重力加速度) | ≈980 gal≈980gal | ≈9.8 m/s2≈9.8m/s2 |
取り扱い | 地震動~数千gal程度を扱う | 1~10 m/s2m/s2 など |
galが地震工学で用いられる理由
- 地震の加速度レベル
- 強い地震で地表面加速度が300~1000 galほど観測されることが一般的。例えば、震度7規模の地震時には1000 galを超える場合もあります。数値として見やすく扱える点がメリットです。
- 慣習と体系化
- 地震観測データが歴史的にgalで蓄積されてきたため、実務上も継続してgal表記が使われ、比較・解析が容易です。
- 地震被害指標との関連
- 建物被害の程度を、最大加速度(Peak Ground Acceleration, PGA)との相関で評価する場合が多く、その値がgalで表現される慣行があります。
数式による換算例
\[ 1\,\text{m/s}^2 = 100\,\text{gal} \]
例えば、地震観測で 300,\text{gal} の加速度が観測されたなら、300 gal=300 cm/s2=3.0 m/s2300gal=300cm/s2=3.0m/s2
このように1桁違うだけなので、頭の中で直感的に換算しやすいという利点があります。
建築・土木における加速度表現
- 地震動の評価
- 地震設計用に想定される加速度応答スペクトルやPGAを、m/s2で提示する設計コードもあれば、galで提示する資料もあります。実質的な情報は同じですが、国内外の慣習差に留意が必要です。
- 耐震実験・実大振動台実験
- 実験結果の加速度波形をgalで表記し、数値のオーダーをわかりやすく示すことが一般的です。
- 設計コードとのリンク
- 日本の建築基準法や道路橋示方書などには地震力算定における加速度としてm/s2m/s2表記が基本ですが、実務資料では同時にgal表記が登場するケースも多いです。
メリット・デメリット
メリット
- 地震工学分野で慣習的に整備され、観測値と直結しやすい
- 重力加速度を約1000 galとして感覚的に扱いやすい
- 地震波形や震度との対比を容易にできる
デメリット
- SI単位系には属さないため、国際基準のm/s2とは変換が要る
- 力学的に見るとm/s2を用いるほうが一貫性が高い
メンテナンスと寿命
加速度をgal表記する観測システム(地震計など)を設置すれば、建物やインフラにどれほどの加速度がかかったかをリアルタイムで把握でき、過大振動が起こった際の安全点検やメンテナンス計画に活用できます。
観測記録が蓄積されれば、建物・橋梁などのヘルスモニタリングや寿命推定にも役立ち、定期検査の最適化につながります。
環境・サステナビリティ
地震リスクを適切に評価することで、建物は必要最小限の補強・改修を行い、過剰建材使用や廃棄物発生を抑制できます。
gal表記で地震動の把握を徹底すれば、地震後の早期対応や構造安全評価を精度高く行い、建物を長期的に運用して資源浪費を防止する効果が期待されます。
今後の展望
地震研究が進み、観測精度が上がるにつれ、加速度計がより高感度・高解像度となり、地震動の細かな揺れまで捉えられるようになります。デジタル技術・AIを併用し、観測した加速度(gal表記)と建物応答のリアルタイム分析が可能になれば、耐震・制振などの技術革新がさらに加速するでしょう。
国際化が進む一方で、日本独自のgal表記は地震工学界で根強く生き続けていますが、今後はm/s2m/s2との併記がより普及し、世界的な研究交流や設計コードの統合に寄与する可能性があります。
Q&A
Q: galという単位名はどこから来ていますか?
A: イタリアの物理学者ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)の名に由来します。1 gal = 1 cm/s2cm/s2。
Q: 1 G(重力加速度)は何 galですか?
A: 約980 galです。地球の重力加速度9.8 m/s29.8m/s2をcm/s2cm/s2に換算すると 980 となります。
Q: 建築基準法などでは加速度をどう表しますか?
A: 基本的にSI単位(m/s2m/s2)ですが、地震動評価などの実務資料や観測データでgalが頻繁に用いられ、併記される例も多いです。
Q: galとg(ジー)は違うのですか?
A: g(ジー)は重力加速度を1 G = 9.8 m/s2m/s2 と定義し、これを基準比で表す単位です。一方、galはcm/s2cm/s2で表す絶対単位です。
今後の展望
加速度の単位「gal」は、地震観測や地震工学で慣例的に使われる1 cm/s2を基準とする固有の単位です。
1 G(重力加速度)が約980 galで、地震動の大きさを数百~千gal程度で表す例が一般的です。
SI単位のm/s2とは異なりますが、実用上は簡便に扱えるメリットがあり、地震動観測や加速度記録には欠かせません。
今後も加速度センサーや耐震設計の高度化に伴い、gal表記は地震大国・日本の設計実務で重要な役割を担い続けるでしょう。