パイルド・ラフト基礎とは?選ばれる理由、他の基礎との比較、施工のポイント解説

パイルド・ラフト基礎(Piled Raft Foundation)は、建物基礎として「ラフト基礎(べた基礎)+杭(パイル)」の組み合わせにより、地盤に直接設置するラフト基礎と、深い地盤に支持させる杭基礎の両方の効果を得る基礎形式です。

伝統的には、建物荷重に対して地盤支持力が不足すると判断されると、柱下に杭を設置して「杭基礎」としていました。しかし近年、ラフト(厚い底板)自体にもある程度の支持力があるという考え方が広まり、杭とラフトの両方が荷重を分担する設計が注目を集めています。

単なる杭基礎に比べ、ラフト基礎部分が荷重の一部を負担するため、杭本数を削減でき、工期・コスト削減が期待できます。また、ラフト基礎だけでは沈下が大きくなるような軟弱地盤においても、杭が沈下抑制に寄与し、沈下差が小さくなる利点があります。

特に地盤条件が部分的に異なる複合地盤や、上部建物荷重が比較的大きい場面で、パイルド・ラフト基礎は合理的な設計手段となります。

なぜパイルド・ラフト基礎が選ばれるのか

  1. 経済性向上:従来は、安全側を優先して多数の杭を打設するのが一般的でした。しかしパイルド・ラフト基礎では、ラフト基礎部分の支持力も評価し、杭本数を削減できる場合があり、工事費を抑えられます。
  2. 沈下量・沈下差の軽減:杭が深い支持層まで届くため、大規模建物や不均質な地盤での沈下をある程度コントロールしやすいです。ラフト部も地表近くの地盤を活かし、荷重を分散。
  3. 設計柔軟性:杭とラフト基礎を組み合わせることで、地盤条件のばらつきや建物形状の複雑さに対応しやすく、設計の自由度が増します。

パイルド・ラフト基礎と他基礎形式の比較表

項目パイルド・ラフト基礎杭基礎(従来型)ラフト基礎(べた基礎)
主な支持力獲得杭 + ラフト杭のみ地盤表層のラフトのみ
杭本数減らせる可能性大必要数を満たすよう全量打設なしまたは少数
沈下制御杭とラフトが共同で分担杭が全荷重を受ける軟弱地盤では沈下大きい
経済性場合によってコスト削減コスト高軽微荷重なら安価

設計のポイント

  1. 荷重分担の評価:杭とラフトがどの程度荷重を分担するかは、地盤条件・ラフト剛性・杭剛性などを考慮し解析します。弾塑性解析・FEMなど高度な手法で精密計算する場合もあります。
  2. 沈下・安全性のバランス:杭本数を減らすほどコストは下がりますが、沈下が大きくなるリスクが増加します。コストと許容沈下量のバランスを最適化する設計が必要です。
  3. 杭頭剛結・ピン結:杭とラフトの接合を剛結とするか、ピン接合とするかにより、ラフトに伝達されるモーメントやせん断力が変わります。剛結では杭頭に大きな曲げモーメントが生じるため、補強設計が重要です。

施工上の注意点

  1. 杭の施工精度:杭頭高さや位置が設計通りでないと、ラフトのかぶり厚さや負担割合が変わり、トラブルの原因となります。杭芯ずれ・高さ管理に厳密な管理が必要。
  2. ラフト打設・配筋:杭頭部とラフトの一体化を図るために、杭頭処理(エポキシ樹脂注入や剛結鉄筋接合)を確実に行い、コンクリート打設前に清掃や定着筋確認を徹底します。
  3. 沈下計測・モニタリング:大規模建物では施工後も沈下が生じるため、適切な計測機器でモニタリングを行い、異常値が出れば早期に原因究明・対策を講じます。

メリットとデメリット

メリット

  • 杭本数削減・工期短縮・コストダウン可能
  • 地表近くの地盤支持力も活用し、設計自由度拡大
  • 沈下差を抑えやすく、大規模建築にも対応

デメリット

  • 設計解析が複雑化、地盤調査や数値解析が高度化
  • 施工管理(杭打設精度、杭頭処理)に手間かかる
  • 杭とラフトの共同作用を理解・評価できる技術力が必要

メンテナンスと寿命

パイルド・ラフト基礎は、基礎全体が地盤内に埋設され、直接メンテナンスは困難な部位です。したがって、事前の設計・施工段階が特に重要です。

建物竣工後は沈下モニタリング、地震後の点検を実施し、異常な沈下や破損がないか確認します。大きな不具合があれば、地盤改良や追加補強が必要になる場合もあります。

環境・サステナビリティへの貢献

杭を過剰に打設せず、ラフト基礎の支持力を上手に活用することで、材料や工事コストを節約し、環境負荷を低減できます。また、建物が長寿命化することで資源浪費を抑え、サステナブルな都市開発に寄与します。

今後の展望

弾塑性解析ソフトやBIMなどデジタルツールの進歩により、より精密な負担割合の解析や施工計画が容易になるでしょう。また、大規模地下空間や高層建築物でますます荷重が大きくなる中、パイルド・ラフト基礎は高い柔軟性・経済性を提供する選択肢として普及が進むと考えられます。


さらに、AIを活用した自動最適化設計や、地盤センサーによる施工時・供用時のリアルタイムモニタリングが発達すれば、パイルド・ラフト基礎の信頼性と効率性は一層高まるでしょう。

Q&A

Q: パイルド・ラフト基礎を使えば必ずコストが下がりますか?
A: 地盤条件や建物規模によります。杭だけの場合よりも杭本数を減らせる反面、解析・施工管理コストが増えることもあります。最適化でコスト低減が見込めるケースが多いです。

Q: どんな建物でもパイルド・ラフト基礎は可能ですか?
A: 地盤が比較的軟弱で、ラフトだけでは沈下が大きい場合に効果が高いです。地盤が非常に硬質ならラフトのみ、極端に軟弱なら全杭基礎を選ぶケースも。状況に応じます。

Q: 地震時の挙動はどうなりますか?
A: ラフトが地表面近くで水平力を分担しつつ、杭が引抜き・押込みを抑制するため、建物の損傷リスクを低減できます。適切な弾塑性解析で安全性を確認します。

Q: 施工管理で特に重要なポイントは?
A: 杭の芯ズレや杭頭高さ管理、杭とラフトの定着方法(剛結/ピン)など。これらが正確でないと、当初想定の荷重分担が崩れます。

まとめ

パイルド・ラフト基礎は、ラフト基礎と杭を組み合わせて荷重を分担させる方式で、軟弱地盤や大規模建物で効率的・経済的な基礎設計を実現する手法です。

杭数削減や沈下抑制、耐震性能向上のメリットがある一方、設計解析や施工管理が高度になるという面も持ちます。

今後、デジタル技術と融合した解析・モニタリングで、さらに信頼性の高いパイルド・ラフト基礎設計が普及し、持続可能な建築開発に大きく貢献すると期待されます。