1軸圧縮試験と3軸圧縮試験の違いとは
地盤工学や建築、土木分野で土や岩盤の強度・変形特性を評価する際によく用いられるのが1軸圧縮試験(単軸圧縮試験)と3軸圧縮試験です。
どちらも土や岩石試料に対し圧縮荷重を加え、破壊強度や変形挙動を調べる実験ですが、試験条件や拘束状態の違いにより、得られる情報や適用範囲が異なります。
1軸圧縮試験は、試料を縦方向だけで拘束せずに圧縮し、水平側面は自由に変形できる条件で強度を測定する単純な試験です。一方、3軸圧縮試験は、試料を三方向から一定の圧力で拘束しつつ軸方向に荷重をかけるもので、地中に埋まった土や岩が実際に受けている多軸状態に近い条件を再現します。
この記事では、1軸圧縮試験と3軸圧縮試験の基本的な違い、特徴、選び方について解説します。
1軸圧縮試験(単軸圧縮試験)の特徴
1軸圧縮試験は、最も基本的な土・岩盤強度試験の一つです。試料を縦方向だけで圧縮し、横方向は無拘束の状態で変形できるため、試料は縦圧縮に伴って横方向に膨張します。
そのため、応力状態は単純な一軸応力となり、土や岩の引張抵抗や接着力など内部構造が弱い方向に対して脆い挙動を示す傾向があります。
- メリット:
- 試験装置が比較的簡易で、準備・実施が容易
- 短時間で基本的な強度指標(単軸圧縮強度)を取得可能
- 土・岩石の基本的な強度判定に有効
- デメリット:
- 現実の地中条件と異なり、横方向拘束力がないため、実際の応力状態を正確に反映しにくい
- 低強度な土試料では、サンプルセットや変形計測に注意が必要
3軸圧縮試験の特徴
3軸圧縮試験は、試料をシリンダー状の膜で覆い、周囲を水や油などで全方位から一定の静水圧(コンファイニング圧)を加えた状態で、軸方向に追加荷重をかけていく試験です。
これにより、地中で土粒子が全方位から土圧を受けている状態に近似でき、より実務的な強度・変形特性が得られます。
- メリット:
- 実際の地中応力状態を模擬可能
- せん断特性、モール応力円で内部摩擦角・粘着力など土の強度パラメータを明確に求められる
- 飽和・非飽和状態、排水・非排水条件など多様な条件下で試験可能
- デメリット:
- 試験装置が複雑で、大掛かりな試験機が必要
- 試料準備や試験手順が煩雑で、コスト・時間がかかる
- 試験条件設定やデータ解析が難しく、専門知識を要する
1軸圧縮試験と3軸圧縮試験の比較表
項目 | 1軸圧縮試験 | 3軸圧縮試験 |
---|---|---|
応力状態 | 一方向圧縮、横方向無拘束 | 三方向拘束圧+軸方向載荷 |
試験設備の規模 | 簡易、低コスト | 複雑、大規模、コスト高 |
結果の実用性 | 基本的な強度指標のみ | 摩擦角・粘着力など詳細パラメータ導出可能 |
再現性・信頼性 | 応力状態が単純だが実状と乖離 | 実務に近い応力状態再現可能 |
どちらを選ぶべきか?
- 簡易なスクリーニング目的:工事前調査で土の強度レベルをざっくり知りたい場合は、1軸圧縮試験で十分な場合があります。
- 詳細設計・耐震評価:地盤解析や地下構造物設計で正確なせん断特性が必要な場合は、3軸圧縮試験が有利です。
- コスト・スケジュール考慮:3軸圧縮試験は高コスト・長期化しがちですので、プロジェクト規模や要求精度に応じて選択します。
応用例
- 宅地開発での地盤評価:1軸試験で概略強度把握、要点箇所で3軸試験を行い、詳細な土パラメータ抽出。
- 橋梁基礎設計:3軸試験で粘土層のせん断強度特性を得て、橋脚基礎安定性を解析。
- トンネル掘削計画:岩盤試料に対して1軸圧縮試験で基本強度を確認した上で、必要に応じ3軸試験で卓越応力状態下の変形特性を評価。
メンテナンス的視点
土・岩盤は時間経過で乾燥・水分変化が起き性質が変わりえます。試験時の含水比・密度を管理することで、結果の信頼性が向上します。3軸試験では飽和・非排水条件を制御し地盤と似た条件を再現可能で、長期安定性予測がしやすくなります。
環境・サステナブル視点
精度の高い3軸試験は、土質特性を正確に把握し、過剰な地盤改良を避けることで、環境負荷・コスト低減につながります。また、1軸試験で簡易的に調べることで、不要な詳細調査を回避し、資源利用を最適化できる場合もあります。
将来の展望
技術進歩により、3軸試験装置は自動化・高度化が進み、非接触式変形計測やリアルタイム解析が可能になっています。AI分析やBIM連動で試験結果を設計に即時反映し、地盤モデルの精度向上が期待されます。
さらに、新たなセンサー技術や遠隔操作でフィールド試験とラボ試験を融合し、より現実に近い地盤応答評価が行われるようになるでしょう。
Q&A
Q: 1軸圧縮試験ではなぜ横拘束がないのですか?
A: 1軸圧縮試験は最も単純な状態での強度評価を目的としており、横方向を自由に変形させることで、側圧無しの単純軸圧縮強度を求めるためです。
Q: 3軸圧縮試験はなぜ高価で時間がかかるのですか?
A: 複雑な試験装置、加圧装置、シール材、飽和・排水条件制御が必要で、試料調製や解析が難しく、精密な操作が求められるためです。
Q: 中規模な建物基礎設計にはどの試験が適していますか?
A: 一般的には簡易な1軸試験で土の基本強度を把握し、必要なら重要箇所だけ3軸試験で詳細パラメータを求める併用が理想です。
Q: 3軸試験を省略して1軸試験の結果を使用した場合のリスクは?
A: 実際の地中応力状態とは異なる単純条件で得た強度を用いると、安全側・非安全側いずれかにバイアスがかかり、設計精度・信頼性低下につながります。
まとめ
1軸圧縮試験は簡易かつ迅速に強度概略を把握でき、3軸圧縮試験はより現実的な地盤応力状態を再現し、詳細なせん断特性を獲得します。両者を補完的に利用することで、地盤・岩盤の特性を的確に捉え、安全で経済的な設計・施工が可能となります。
今後も試験技術・解析法の進化により、地盤評価はさらに精度・効率が高まると期待されます。