面内剛性とは?面外剛性との違い、評価方法、

面内剛性とは何か

建築物や橋梁などの構造設計において、「面内剛性」という言葉は、床板や壁板、スラブなど平板要素の剛性特性を示す重要な概念です。

面内剛性は、その名の通り「平面方向(面内)」に働く荷重に対して部材がどれだけ剛性(変形しにくさ)を有するかを表しています。


構造物は様々な方向から荷重(風、地震、積雪、利用荷重など)を受け、各部材が荷重分担を行います。このとき、床スラブや壁が水平・鉛直方向の力に対してどれほど変形を抑えられるかが、全体の安定性やねじれ挙動抑制に直結します。十分な面内剛性を確保することで、変位制御や応力分布の均一化が可能となり、構造物の耐久性・安全性が向上します。

面外剛性との違い

部材剛性には「面内剛性(In-plane Stiffness)」と「面外剛性(Out-of-plane Stiffness)」が存在します。面外剛性は部材が厚み方向に曲げられる場合の剛性であり、板がたわみにくいかどうかを示します。

一方、面内剛性は平面内でのせん断変形や引張・圧縮変形に対する抵抗特性を表します。

簡単な比較表を示します。

種類意味
面内剛性平面方向の荷重に対する変形しにくさスラブ面内せん断、壁板平面内負荷
面外剛性板厚方向の曲げ剛性を含む変形しにくさ屋根スラブのたわみ、壁板のたわみ

面内剛性は、例えば床スラブが水平力を受けた際にどの程度床全体で力を分配できるか、壁が枠組みの中で水平力を伝達・支持する役割をどれほど果たせるか、といった評価に用いられます。

面内剛性を考慮する理由

  1. 水平荷重伝達:地震や風など水平力が作用した場合、床や壁が剛な「面」として働き、応力をフレーム(柱・梁)へ効果的に伝達します。
  2. 変形制御:面内剛性が高いと、局部的な変形集中が起こりにくくなり、全体的な変位を抑制して居住性・使用性を向上します。
  3. 耐震性能向上:剛な床スラブは、層間変形を抑え、フレーム全体でエネルギーを吸収・分散しやすくなります。結果的に倒壊リスク低減に寄与します。

評価方法

面内剛性を評価する際、以下のような要素を考慮します。

  • 材料特性:コンクリート、鉄筋、鋼材、複合材料のヤング係数、せん断弾性係数など。
  • 部材寸法・厚み:スラブや壁が厚ければ剛性が増します。
  • 支持条件:隣接部材との接合状態や支点条件により、面内剛性は大きく変わります。
  • 開口部:開口が多い壁やスラブは面内剛性が低下します。補強筋やフレーム補強による剛性補填が必要です。

設計段階での取り扱い

設計者は、構造解析モデルを組む際、床スラブを剛床とみなすか、有限剛性床としてモデル化するかを検討します。剛床仮定(床スラブが面内で剛性無限大)を用いると、計算が単純化され、梁柱フレームに水平力が均等配分されます。一方、有限剛性床モデルを用いれば、より現実的な応答を見積もることができます。
壁については、面内剛性を考慮し、耐震壁としての働き(せん断剛性)を算定します。壁の面内せん断剛性は、コンクリート耐震壁やブレースを有する壁面によって地震時の水平変形を効果的に抑制します。

コンクリート壁の面内剛性計算例)

(以下は参考例であり、実際の計算では設計指針や基準式を用います)

仮に、コンクリート壁厚t=200mm、有効高さH=3000mm、ヤング係数E=2.1×10^4 N/mm²、ポアソン比ν=0.2を想定します。

壁の面内せん断剛性G’はせん断弾性係数Gを用いて求められ、Gは約G=E2(1+ν)G=2(1+ν)E​で計算できます。

たとえば

G=2.1×1042(1+0.2)=2.1×1042.4≈8,750N/mm2

面内せん断剛性はG×As(Asは断面積)などで評価し、せん断変形量を算定します。

面内剛性が不足した場合の対策

  1. 補強リブやフレーム追加:床スラブ下にリブを設ける、壁に境界柱やフレーム補強部材を追加して剛性強化。
  2. 材料変更:高強度コンクリート、鋼板補強、FRPシート貼付などで剛性アップ。
  3. 開口部縮小・補強:壁やスラブ開口部の周囲に補強筋や鋼材を配置し、剛性低下を補う。

他特性との比較表

要素面内剛性主眼点面外剛性主眼点考慮する場合
剛性評価床・壁が水平力分散板のたわみ抑制耐震設計・水平荷重時
使用材料材料E,G(せん断剛性)材料EI(曲げ剛性)スラブ・壁・床版設計全般
開口部影響面内剛性大幅低下面外たわみに影響少開口補強が必須

面内剛性を高めるメリット

  • 地震時安全性向上:柔らかい床や壁は地震時に大きく変形し、二次部材に過大応力が生じやすいです。面内剛性強化でこれを軽減。
  • 変形抑制で快適性向上:揺れが小さいほど使用者にとって安心感が増します。
  • 設計自由度拡大:面内剛性を確保しておけば、意匠的な開口計画や設備配管レイアウトでも剛性不足を補い、設計の柔軟性が広がります。

将来動向

高性能材料、複合構造、接合技術の進歩により、面内剛性を効率的に確保しつつ軽量化・コスト削減が進むと考えられます。また、数値解析や最適化技術の向上により、有限剛性モデルを簡便に適用し、より実態に近い設計が普及するでしょう。

Q&A

Q: なぜ床スラブを剛床とみなすことが多いのでしょうか?
A: 多くの場合、床スラブは十分な厚みと補強筋量を持ち、実質的に面内剛性が大きいため、計算上剛床と仮定することで解析が簡略化できます。

Q: 面内剛性はどうやって測定しますか?
A: 実測は困難ですが、材料試験や既存構造物の動的観測から推定した弾性定数、有限要素解析で数値的に算定する方法が一般的です。

Q: 開口部がある壁は、剛性低下をどの程度見積もればよいですか?
A: 開口率や開口位置によって異なります。設計指針や論文研究を参考に、必要に応じて剛性低減係数を適用する方法が用いられます。

Q: FRP補強や鋼板補強は面内剛性を大幅に向上できますか?
A: 適切な補強手法を選べば、既存構造の面内剛性を有意に強化できます。ただし補強方法や接着・接合品質、長期耐久性にも留意が必要です。

まとめ


面内剛性は、水平荷重に対する床・壁など平板部材の「面」としての剛性を示す概念で、構造物の耐震性、使用性、設計柔軟性に密接な影響を及ぼします。

材料特性・部材寸法・開口部・補強計画など多面的な要素を考慮し、適切な面内剛性を確保することで、構造物の安全性・経済性・快適性を高い水準で実現できます。