強軸・弱軸とは?区別の仕方、断面二次モーメントとの関係、実務上の注意点を解説

強軸・弱軸とは何か

建築構造設計では、梁や柱などの部材断面に対して「強軸」と「弱軸」という用語がよく用いられます。断面には主軸と呼ばれる2つの直交する軸が存在し、荷重による曲げモーメントがこれら軸に対して作用するとき、強度・剛性面で有利な方向が「強軸」、不利な方向が「弱軸」となります。


簡単に言うと、部材断面が上下方向に長い場合、その長手方向(高さ方向)で曲げると曲げ剛性が高く、これが「強軸曲げ」となります。逆に幅方向(横方向)に曲げようとすれば剛性が劣り、これが「弱軸曲げ」となります。

なぜ強軸と弱軸を区別するのか

構造要素は様々な方向から荷重を受け、曲げモーメントを発生させます。

その際、部材がどの方向に抵抗しやすいか把握することは、断面選定や配筋計画、接合部設計に不可欠です。強軸側で曲げを受けると効率的に荷重を支えられ、部材断面をコンパクトにできます。一方、弱軸側に大きな曲げがかかることが想定される場合、補強や断面形状の工夫が求められます。

強軸・弱軸の見極め方

一般的な形鋼(H形鋼、I形鋼)を例にすると、H形鋼ではウェブ高さ方向に曲げる場合が強軸曲げ、フランジ方向に曲げる場合が弱軸曲げになります。なぜなら、高さ方向は断面二次モーメントが大きく、曲げ剛性が高いからです。

例えばH形鋼の場合:

軸方向特徴曲げ剛性用途例
強軸ウェブ高さ方向大 (剛性が高い)梁の主方向曲げ、柱軸方向曲げ
弱軸フランジ幅方向小 (剛性が低い)側方向安定性確保が必要な場面など

断面二次モーメントとの関係

強軸・弱軸の定義は、断面二次モーメント(I)の大きさに起因します。

Iは断面形状によって異なり、長辺方向に曲げるときのI値が大きいほど、その方向が強軸となります。逆にI値が小さい方向は弱軸です。

(以下は例示であり、具体的な断面形状をもつ数値例は割愛) 例えばH形鋼で、高さh、幅b、ウェブ厚t_w、フランジ厚t_fとすると、強軸I値(I_x)はhの3乗に比例しやすく、弱軸I値(I_y)はbの3乗に比例する。しかしH形断面は高さが幅より大きくI_x > I_yとなり、x軸側が強軸、y軸側が弱軸となる。

強軸・弱軸を考慮した設計手法

  1. 梁設計:水平荷重や床荷重を受ける梁は、主曲げ方向を強軸に合わせることで、小断面で高い曲げ耐力が確保可能です。
  2. 柱設計:柱は上下軸(強軸)方向で主な曲げモーメントを負担するように配置します。弱軸側への過度な曲げ発生が予想される場合、レイアウトを工夫したり、ブレース配置で弱軸方向の挙動を補強します。
  3. 接合部設計:梁端接合部で強軸側曲げに対して溶接やボルト接合を強化します。弱軸側曲げが生じやすい場合、接合部プレートや補強リブを追加して剛性を補います。

材料・断面の工夫

強軸・弱軸特性を踏まえ、以下のような対策で弱軸側性能を向上できます。

  • 断面形状の変更:I形鋼に代えて箱型断面(BOX梁)を採用すれば、x方向・y方向ともにI値をバランス良く確保できます。
  • 補強材の追加:弱軸方向に作用する荷重が大きい場合、補強板やスティフナー(補剛材)で断面を強化します。
  • 材料選定:強軸・弱軸どちらにも余裕を持たせたい場合、高強度鋼やFRPなど、性能の高い材料で部材を構成します。

強軸・弱軸の比較表

比較項目強軸弱軸
定義断面剛性大きい方向断面剛性小さい方向
曲げ剛性
応用主梁方向、柱主軸側方安定要、補強要
設計方針主モーメント方向要補強・要工夫

実務上の留意点

  1. 地震時応答:地震荷重は多方向から作用します。設計段階で強軸・弱軸両方向を考慮し、建物全方向へ対応可能なフレーム布置が望まれます。
  2. 風荷重や衝突荷重:タワーや高層建物では、風向きに応じて強軸・弱軸方向の挙動をチェックします。風向が弱軸方向に作用すると、変形が大きくなる可能性があります。
  3. 施工性・経済性:強軸側を有効活用するレイアウトは、部材断面削減やコスト低減につながります。一方、弱軸側強化には追加補強が必要で、施工手間・コスト増を招く場合があります。

強軸・弱軸を考慮した最適化

設計者は、建物の平面プランや荷重条件を総合的に検討し、梁・柱位置や断面方向を最適化します。

強軸方向を主要な荷重支持方向に設定し、弱軸側には軽微な荷重だけが作用するよう建物を配置すれば、効率的な構造が実現できます。

将来展望

計算力や解析手法の進歩により、建物全体の3次元挙動を詳細にシミュレーションできるようになっています。

これに伴い、強軸・弱軸方向特性をより精密に反映した最適設計が普及し、材料利用効率アップ、持続可能な建築が推進されるでしょう。

Q&A

Q: 全ての部材に強軸・弱軸は存在しますか?
A: 基本的に対称性のある断面なら、長辺と短辺方向があり、剛性に差が生まれるため強・弱軸が存在します。ただし、円形断面など対称性が高く、全方向同特性の場合は明確な強弱軸は生じません。

Q: 強軸方向で設計しておけば弱軸は無視してもいいですか?
A: 弱軸側も無視はできません。特に外力が全方向から作用する場合や、計画上、弱軸方向にも大きな荷重が生じるなら補強や配慮が必要です。

Q: 弱軸側を強化する手段は?
A: 補剛板・補強リブの追加、断面形状変更(箱断面化)、水平ブレースや追加フレームでの支持などで弱軸方向剛性・耐力を向上可能です。

Q: 強軸・弱軸を考えずに中立軸のみで設計することは不適切ですか?
A: 中立軸や任意の軸を用いるだけでは、実際の荷重方向を正しく評価できない場合があります。主軸(強軸・弱軸)に沿った評価が、より正確な剛性・耐力把握に必要です。

まとめ


強軸と弱軸は部材断面特性を理解するうえで重要な概念です。

強軸側は曲げ剛性が大きく、効率的に荷重を支えますが、弱軸側は剛性が劣り、注意が必要となります

設計者はこの違いを踏まえ、建物全体のフレーム計画や補強手法を最適化することで、安全性・経済性・施工性をバランス良く満たした構造物を実現できます。