鉛直震度とは?特徴、計算方法、設計上の注意、Q&Aから解説!

鉛直震度とは何か

鉛直震度とは、地震時に生じる上下方向(鉛直方向)の加速度成分を、重力加速度に対する比率で表したものです。

一般的に地震荷重といえば水平方向成分が重視されがちですが、地震動は上下方向にも大きな加速度を伴うことがあり、特に日本のように地震が多い国では、鉛直方向の揺れが建物や設備、橋梁、ダムなどに与える影響を無視できません。
上方向の引き抜き力増大や、下方向への圧力増幅を考慮することで、部材強度や接合部設計を精度良く行えます。

鉛直方向地震動の特徴

地震動は3成分(東西、南北、上下)からなる場合が一般的ですが、上下成分はしばしば水平方向ほど顕著ではないと誤解されがちです。

しかし実際には、近接地震動や断層近傍では上下方向の加速度ピークが大きくなる例が報告されています。

また、上層階ほど振動増幅が起こりやすく、屋上に設置された機器類への影響は無視できません。

鉛直震度の計算方法

設計で用いられる鉛直震度は、規準やガイドラインに則って設定されます。一般的には水平方向震度との一定割合で与えられたり、地盤条件や構造物特性に基づく評価が行われます。 \[ \alpha_v = \frac{a_v}{g} \]

\begin{array}{ll} \text{where:} & \ \alpha_v & : \text{鉛直震度} \ a_v & : \text{鉛直方向加速度 (m/s²)} \ g & : \text{重力加速度 (約9.81 m/s²)} \end{array}

このように、実測された上下方向加速度を重力加速度で割ることで、無次元化した指標として用いることができます。

建物設計での鉛直震度の考慮

建物構造設計においては、鉛直震度を考慮することで以下のような点が改善できます。

  • 梁・床版への負担評価:上下方向加速度は梁や床版に局所的な引抜きや圧縮応力を増幅させます。
  • 接合部・アンカー設計:柱梁接合部、耐震壁下端部、基礎と上部構造をつなぐアンカーボルトなどの引抜き抵抗設計に有用です。
  • 機器・設備固定:屋上設備、天井吊り材、配管サポートなどは鉛直震度を考慮し支持強度を確保します。

材料・部材選定と鉛直震度

鉛直震度への対応は、主に部材断面や補強方法の適切化を通じて行われます。

例えば、梁の上フランジ補強、床版鉄筋量の増強、あるいは高靱性材を用いて引抜き耐力を高める対応が可能です。また接合部では、適切なボルト締結や溶接長確保など、施工精度を高めることで上下方向加速度に対抗できます。

種々の構造物における鉛直震度評価例

構造物種別鉛直震度考慮のポイント主な対策例
鉄筋コンクリート建物床版・梁への引抜応力増大上部鉄筋補強、床厚増加
鉄骨構造柱梁接合部の引抜き、座屈ハイテンションボルト補強
橋梁桁・支承部での引抜き力支承部座屈防止、補剛材追加
水門・ダム水圧と組み合わさる上下動鉄筋補強、アンカー増強

この表は例示的なもので、実際の対策は構造特性や設計基準に依存します。

コード・ガイドラインでの取り扱い

各国や地域の建築基準法、道路橋示方書、港湾施設耐震設計指針などで、鉛直震度の考慮について規定されています。

日本では、耐震設計上、鉛直震度を水平方向震度の一定割合(例えば1/2や1/3程度)で評価するケースが多く、詳細設計段階では実測記録や解析結果に基づく独自設定も行われます。

鉛直震度を踏まえた設計の重要性

上下方向の地震動を評価することで、以下のような効果が期待できます。

  • 安全性向上:上下荷重増減による部材破壊リスクの低減。
  • 長寿命化:地震動による疲労や繰返し応力影響を低減することで部材寿命延長。
  • リスクマネジメント:上部に設備を有する構造物での損傷リスク予測が精緻化。

Q&A

Q: 鉛直震度は必ず考慮する必要があるのでしょうか?
A: 基準上義務づけられる場合や重要構造物では考慮が求められることが多いです。一般的建物でも精度良く耐震設計を行うため、考慮が望まれます。

Q: 水平方向震度との関係はどうなりますか?
A: 多くの場合、鉛直震度は水平方向震度を基準として一定割合で定められますが、実測加速度波形に基づく独立設定も可能です。

Q: 鉛直震度を無視した場合の影響は?
A: 接合部引抜き強度不足、梁・床版の局所的損傷リスク増加、屋上機器の転倒・落下リスク増大などが生じる可能性があります。

Q: 鉛直震度は地盤条件によって変わりますか?
A: 地盤特性や震源域、建物高さ、層構成により上下方向の揺れ方は変わり、結果として算出される鉛直震度にも影響します。

まとめ

鉛直震度は上下方向の地震影響を評価する重要な指標であり、水平方向だけでなく垂直方向の応力増減を正しく把握することで、建物や構造物全体の耐震性能を向上できます。

材料特性や接合方法、補強計画などを適切に見直すことで、地震被害リスクを低減し、安全性と信頼性を高めることが可能です。