崩壊モードとは?種類、モード別の比較、算定方法を解説

崩壊モードとは何か

崩壊モードとは、構造物が地震や風などの外力により最終的な破断や大変形に至る際、その過程で形成される特有の変形パターンや破壊形態を指します。

崩壊モードを把握することで、どの部材がどのような順序で塑性化し、どの箇所が弱点となるのかを事前に把握できます。

これにより、延性を確保して急激な脆性的崩壊を避けたり、最適な補強計画を立てたりできるため、安全かつ経済的な設計が可能となります。

代表的な崩壊モードの種類

構造物はその材料特性や接合形式により、様々な崩壊モードを示します。代表的な例として以下が挙げられます。

  • 曲げ崩壊:梁・柱が塑性化して曲げヒンジを形成し、じわじわと変形しながら最終的に曲げ破断に至るモードです。延性が高く、徐々に破壊へ進行するため、事前警告的な挙動が期待できます。
  • せん断崩壊:せん断力により急激に部材が割れるように破壊する脆性的なモードです。延性が低く、突然の破断となるため非常に危険です。
  • 局部座屈崩壊:薄板部材(梁腹板、フランジなど)が圧縮力下で局所的に座屈し、強度が低下して崩壊に至るモードです。板厚増加や補剛材追加で改善可能です。
  • 全体座屈崩壊:柱や軸圧縮材が曲げ座屈・わん曲を起こし、全体的な形状不安定により崩壊するモードです。長細比の低減や剛性増強が効果的です。
  • 接合部崩壊:溶接部やボルト接合部が弱点となり、その部分から破断が進行するモードです。接合部仕様や品質管理が重要となります。

崩壊モード別の比較表

崩壊モード特徴延性度主な対策発生例
曲げ崩壊緩やかな塑性化断面拡大、補剛材挿入梁中央、柱脚付近
せん断崩壊急激な破断せん断補強筋、断面強化梁端部、短柱
局部座屈崩壊局所的座屈板厚増、補剛材設置梁フランジ、腹板部分
全体座屈崩壊座屈的変形変動座屈長短縮、剛性向上細長い柱、圧縮部材
接合部崩壊接合弱点化中〜低接合部強化、品質管理溶接部、ボルト部位

崩壊荷重の算定例

崩壊モードを評価する際、塑性ヒンジ形成による崩壊荷重計算が有効です。単純梁中央に集中荷重Wが作用する場合、塑性モーメントMp​から崩壊荷重を求めます。

塑性モーメントと崩壊荷重の計算

塑性モーメント \( M_p \) は以下の式で表されます:

\[ M_p = f_y \cdot Z \]
  • where:
  • \( M_p \): 塑性モーメント (kN・m)
  • \( f_y \): 降伏応力 (N/mm2)
  • \( Z \): 塑性断面係数 (mm3)

梁中央に集中荷重 \( W \) が作用する単純梁の場合、崩壊荷重 \( W_\text{collapse} \) は塑性ヒンジ形成条件から次のように求められます:

\[ W_\text{collapse} = \frac{4 \cdot M_p}{L} \]
  • where:
  • \( W_\text{collapse} \): 崩壊荷重 (kN)
  • \( M_p \): 塑性モーメント (kN・m)
  • \( L \): 梁スパン (m)

これら計算で、曲げ崩壊モードを想定した崩壊荷重を求めることが可能です。

崩壊モードに基づく設計改善

崩壊モードを理解すれば、以下のような効果的対策が可能です。

  1. 延性重視の設計:延性的な曲げ崩壊を誘導し、せん断崩壊や脆性破断を回避します。塑性ヒンジが形成される領域を計画的に定めることで、大地震時でも急激な崩壊を防ぎます。
  2. 局部座屈防止:薄板部の局部座屈を防ぐため、適切な補剛材配置や板厚確保を行います。
  3. 接合部品質向上:接合部崩壊を避けるため、高品質な溶接、適正なボルト規格選定、検査体制の強化で接合強度確保が可能です。
  4. 全体座屈対策:長柱における座屈モードを軽減するため、部材長短縮、断面二次モーメント増加、側方支持の確保などで全体剛性を高めます。

非線形解析の活用

近年では、数値解析ソフトウェアにより、塑性化過程や座屈現象を考慮した非線形解析が一般的になっています。

非線形解析で崩壊モードを事前に把握すれば、より精度の高い耐震設計が可能となり、不確実性を減らしながら安全性とコストの最適化を図れます。

Q&A

Q: 崩壊モードはどのように決定されるのですか?
A: 部材特性(降伏応力、断面形状)、接合部仕様、周辺条件を考慮した非線形解析や実験結果から特定します。

Q: 崩壊モードを考えるのは大規模建物だけですか?
A: 小規模建物でも有用です。簡易なモデルでも崩壊形態を予測し、最小限の補強で安全性を向上できます。

Q: 改修や補強時に崩壊モードは変わりますか?
A: 補強材追加や接合部改善で崩壊モードが変更される場合があります。再評価して最適な補強計画を立てることが重要です。

Q: 地震以外の荷重でも崩壊モードは重要ですか?
A: 風荷重、積雪荷重、火災時の強度低下など、様々な状況で崩壊モードは生じるため、包括的な評価が望まれます。

まとめ


崩壊モードを理解し、延性的で安定した破断形態を意図的に誘導すれば、余裕ある安全性確保とコスト削減が可能です。

非線形解析や実験的知見を活用し、適切な補強・接合改善・座屈対策を行うことで、脆性的破壊を回避できます。崩壊モード理解は、持続可能で耐震性能の高い構造設計に直結します。