焼抜き栓溶接とは?基本、他の溶接との比較、注意点について解説

焼抜き栓溶接は、重ね合わせた鋼板などに穴を空け、溶接熱によってその穴を埋める形で両材料を一体化する溶接方法です。

英語では“Plug Weld”や“Slot Weld”と呼ばれる場合もあり、建築鉄骨や製造業の鋼板接合で広く使われています。ピンポイントで高温を加えて穴を満たすため、ビードがコンパクトで、鋼板同士のズレを抑えながら堅固に接合できるのが特徴です。

ただし、焼抜き栓溶接と類似の「穴あけ栓溶接(Plug Weld)」や「スロット溶接(Slot Weld)」などと混同しやすいので注意が必要です。

焼抜き栓溶接では、同時に穴を焼きながら溶融金属を充填する点が大きな特徴で、特別な技術や機材を必要とするケースがあります。施工手順や熱影響の管理が不十分だと、根元部分の溶け込み不足や変形が起こるリスクもあります。

この記事では、焼抜き栓溶接の基本から、メリット・デメリット、施工上の注意点、ほかの溶接法との比較など、体系的に解説します。

焼抜き栓溶接の基本

  1. 仕組み
    2枚の鋼板などを重ねた状態で、上側の鋼板に部分的に穴を空けながら、下側の鋼板まで深く溶け込むように溶接を行います。要するに、溶接のアークや溶接ワイヤを用いて上側板を局所的に焼き切りながら溶融プールを形成し、そのまま下板にも溶け込み、最終的にホールを埋めるようにビードを形成します。
  2. 用途
    建築鉄骨のガセットプレート取付、補強板の重ね合わせ、車両・船舶などの金属加工など、多様な分野で使われます。特に部材の外観を大きく崩さずに強固な接合を得たい場合に適しています。
  3. 利点
    • 高い接合強度: 栓溶接で形成されるビードはせん断力や引張力に対して大きな抵抗力を発揮しやすいです。
    • コンパクトな仕上がり: ビードが穴埋め部分に集中し、外観を阻害しにくい。
    • 溶接不良が発生しにくい: 板厚や穴径を適切に設定すれば、溶接部の根元にしっかりと溶け込みを得られます。
  4. 欠点
    • 施工難易度: 高い電流と正確な溶接棒の操作が求められ、熟練技術が必要です。
    • 板厚の制限: 厚すぎる板では焼抜きが困難になったり、溶け込みが不十分になる場合があります。
    • 熱影響の管理: 局所集中熱により近傍に熱変形が生じる恐れがあり、歪み対策を考慮する必要があります。

焼抜き栓溶接とほかの溶接法の比較表

分類焼抜き栓溶接穴あけ栓溶接 (Plug Weld)スポット溶接
穴の有無溶接時に上板を焼きながら穴を形成あらかじめ穴を開けてから溶接穴なし、電極圧力と通電で接合
施工難易度中〜高:熱量とタイミング制御が難しい中:穴を開ける工程が増える低〜中:専用機械で圧接
主な用途重ね合わせた鋼板の局部的な補強自動車ボディや小規模補強部材自動車ボディ・家電など薄板の大量生産
対応板厚中厚板〜厚板(ただし適正範囲あり)薄板〜中厚板薄板が中心
強度と外観高強度で仕上がりがコンパクト強度は焼抜き栓溶接にやや劣る外観は目立ちにくいが強度は限定的

施工時の注意点

  1. 溶接条件の選定
    母材の材質・板厚や溶接棒(ワイヤ)の直径、電流・電圧の設定などを的確に選定します。とくに板厚が大きい場合、アーク時間や移動速度を適切に設定しないと焼き切りや溶け込み不良が起こりやすくなります。
  2. 穴径のコントロール
    溶接アークによって自動的に穴を空ける場合、予想外に大きな穴が空きすぎたり小さすぎたりすると、ビード形成や強度に悪影響を及ぼします。事前の溶接試験やトライアルビードで最適条件を把握しましょう。
  3. 歪みと応力集中
    局部的に高温が加わるため、近傍の材料に熱応力が集中します。大型の構造物などでは、溶接順序やクランプなどを活用し、熱歪みを最小限に抑える工夫が必要です。
  4. 溶け込み不良・スラグ巻き込み防止
    溶接時の姿勢やアクセス性が悪い場所では、アークが不安定になりスラグ巻き込みや溶け込み不足が発生しやすいです。適切な溶接姿勢とチューブラー状の溶接棒などを使用して対策を講じると良いでしょう。
  5. 補強材・裏当て材の使用
    大きな荷重がかかる溶接部や、仕上がり品質が重要なケースでは、裏当て金属をセットして溶け落ちを防ぐのも有効です。非金属のセラミック裏当て材を使う例もあります。

Q&A

Q1: 焼抜き栓溶接と穴あけ栓溶接(Plug Weld)は何が違うのですか?
A1: 焼抜き栓溶接は溶接アークで上板を焼きながら穴を形成しつつ下板と溶着しますが、穴あけ栓溶接はあらかじめ上板に穴を空けてから、その穴を埋める形で溶接を行います。

Q2: 厚板でも焼抜き栓溶接は可能でしょうか?
A2: 一定の厚さまでは対応可能ですが、非常に厚い板だと熱量が不足して完全に焼き抜くのが難しくなります。下穴を開けるか、別の溶接法を検討するほうが確実です。

Q3: ステンレスなどの特殊合金でも焼抜き栓溶接はできますか?
A3: できます。ただし、ステンレスや高強度鋼は溶融温度や熱伝導率が異なるため、溶接条件を綿密に調整する必要があります。事前の溶接試験は必須となります。

Q4: 焼抜き栓溶接で気を付ける溶接姿勢はありますか?
A4: 下向きや水平溶接など、アーク制御がしやすい姿勢が望ましいです。仰向きや横向きなどは溶融金属が垂れやすく、穴形成も不安定になりがちです。

Q5: 検査や品質管理はどう行うのでしょうか?
A5: 一般には外観検査や超音波探傷検査が行われます。超音波で溶け込みの深さや欠陥の有無を確認し、所定の基準を満たしているかをチェックします。

まとめ

焼抜き栓溶接は、板金溶接や建築鉄骨で行われる栓溶接の一形態として、コンパクトかつ強固な接合を可能にする手法です。電流や電圧、アーク操作によってその場で穴を焼きながら溶接金属を充填するため、通常のプラグ溶接とは異なる熟練した溶接技術が求められます。


正しい条件設定と施工管理を行えば、局部的な補強や荷重に対して高い強度・耐久性を期待できます。しかし、板厚や材料によっては熱量不足や穴の大きさコントロールが難しいという課題もあります。