全塑性モーメントとは:基本概念と注意点を解説!

全塑性モーメント(Ultimate Plastic Moment)は、構造力学や建築工学において、梁や柱などの構造部材が完全に塑性化し、最大の耐力を発揮する時のモーメント(曲げモーメント)を指します。特に塑性設計法や耐震設計において重要で、部材の限界状態や崩壊モードを評価する際に使用されます。

以下では、全塑性モーメントの基本的な理論、計算方法、設計への応用について詳しく解説します。


全塑性モーメントの基本理論

材料が塑性範囲に達すると、以下のような挙動を示します:

  1. 弾性状態
    材料がフックの法則に従い、応力とひずみが比例関係にある状態。
  2. 弾塑性状態
    材料の一部が降伏し始め、弾性部分と塑性部分が混在する状態。
  3. 完全塑性状態
    材料全体が降伏し、部材が完全に塑性化した状態。このとき、部材が耐えうる最大モーメントが「全塑性モーメント」となります。

全塑性モーメントの計算方法

1. 基本公式

全塑性モーメントは以下の式で表されます:

Mp = fy Z

ここで:

  • fy: 材料の降伏応力(N/mm²)
  • Z: 塑性断面係数

全塑性モーメントの意義と応用

1. 構造設計における意義

全塑性モーメントは、部材が崩壊する直前の状態を評価する指標となります。これにより、設計者は部材が持つ最大耐力を考慮して設計を進めることができます。

2. 耐震設計への応用

耐震設計では、地震動による外力が作用した際に、部材が弾塑性挙動を示すことを前提としています。この際、全塑性モーメントを超えない範囲で部材がエネルギーを吸収し、建物全体が倒壊を回避するように設計されます。

3. 構造の安全性評価

構造物の安全性評価では、全塑性モーメントを基準に、部材が破壊に至る前の余裕度(安全率)を確認します。


全塑性モーメントに関する注意点

  1. 部材の局部座屈
    特に薄肉断面の場合、全体が塑性化する前に局部座屈が生じる可能性があります。この場合、実際の耐力は全塑性モーメントより小さくなります。
  2. 疲労やクリープの影響
    長期的な荷重や繰り返し荷重が作用する場合、材料の疲労やクリープが進行し、全塑性モーメントに到達する前に性能が劣化することがあります。
  3. 塑性ヒンジ形成の考慮
    部材が完全に塑性化すると「塑性ヒンジ」が形成され、構造全体の挙動に大きな影響を及ぼします。このため、塑性ヒンジの形成位置を考慮した設計が必要です。

結論

全塑性モーメントは、建築構造設計において不可欠な概念です。その計算や理解を通じて、建物の安全性を確保し、効率的な材料利用が可能になります。ただし、部材の座屈や疲労、クリープなどの現実的な影響を考慮することで、より信頼性の高い設計が実現します。

塑性設計や耐震設計の重要な要素として、全塑性モーメントを適切に理解し、活用することが求められます。