根巻き柱脚とは、鉄骨造や鉄筋コンクリート造などで用いられる柱脚形式の一種で、柱の根元部分をモルタルやコンクリートなどで巻き込むように仕上げる工法を指します。
柱と基礎の接合部を露出させずに、一体感をもたせながら強度や耐久性を高めるのが大きな特徴です。
一般に、柱脚は建物全体の荷重を基礎へ伝達すると同時に、地震や風などの水平力にも対抗する重要な役割を担います。
通常の露出柱脚の場合、アンカーボルトやベースプレートが見える形で仕上がりますが、根巻き柱脚はそうした金物類を外観上隠せるため、意匠面でもメリットがあります。一方で、施工方法やメンテナンス性には注意が必要となるため、根巻き柱脚を選ぶ際には十分な検討が求められます。
根巻き柱脚が採用される理由
- 美観の向上
鉄骨柱の根元やアンカーボルトがむき出しのままだと、工業的な印象を強く受ける場合があります。根巻き柱脚を採用すれば、モルタルやコンクリートで巻くことでスッキリとした外観を得られます。内装デザインとの統一感を出したい場合などにも有効です。 - 耐久性と防錆対策
露出した鉄骨部分が雨や湿気により錆びるリスクを低減できるメリットがあります。コンクリートやモルタルで覆うことで、外気や水分の影響を受けにくくなり、長期にわたって腐食を防止できます。 - 防火・防水性能の向上
火災時に鉄骨が直接炎や高熱にさらされると、急激に強度低下を起こす恐れがあります。根巻きによってコンクリートやモルタルが火熱からのバリアとなり、防火上の利点が期待できます。また、外部からの浸水を防ぐ意味でも効果的です。 - 柱脚周りの安全確保
柱脚が露出している場合、歩行者が足をぶつける、あるいは金物部分に手や衣類が引っかかるといったトラブルが発生し得ます。根巻きによって柱脚との段差をなくすことで、安全性を向上しやすいです。
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根巻き柱脚の施工方法とポイント
- 下地処理と型枠の準備
柱脚周辺を清掃し、錆や油分などを除去しておきます。コンクリートやモルタルが定着しやすいように、柱表面にプライマーを塗布する場合もあります。その後、根巻き形状に合わせて型枠を組み、コンクリートまたはモルタルを充填するスペースを確保します。 - 配筋計画
根巻き部分に適切な補強筋を入れることで、コンクリートがひび割れしにくくなり、強度を保ちやすくなります。特に地震などで柱脚に大きなモーメントが加わる場合は、補強筋の設計が非常に重要です。 - コンクリートまたはモルタルの充填
根巻き用の型枠内部にコンクリートやモルタルを流し込み、バイブレーターなどで十分に締固めを行います。気泡や空隙が残ると強度や耐久性が損なわれるため、注意が必要です。打設後は適切な養生期間を設け、ひび割れを防ぎます。 - 仕上げ作業
コンクリートやモルタルが硬化した後、型枠を外し、必要に応じて表面を平滑に仕上げます。仕上げ材を塗布する場合やタイル・石材で意匠仕上げをする場合もあります。防水層との取り合いや伸縮目地の設定なども検討します。 - メンテナンス
根巻き部分が外部に面している場合、経年劣化によるひび割れや浮きなどが起きることがあります。定期的な点検を行い、剥がれやすい部分を補修するなど、適切なメンテナンスを実施することが大切です。
根巻き柱脚のメリットとデメリットの比較表
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
美観 | 柱脚金物を隠して一体感のある仕上げにできる | 実際のアンカーボルトやプレート位置を明確化しにくい場合がある |
防錆・防火性能 | 鉄骨をコンクリートやモルタルで覆うことで腐食・火災に強くなる | 完全に保護しても、隙間からの水分侵入により内部腐食が進行する可能性あり |
安全性・防水性 | 段差がなく歩行者に優しく、防水処理もしやすい | ひび割れからの水侵入リスクが存在し、施工精度が重要 |
施工性 | 型枠やコンクリート打設で比較的容易に形状を調整できる | 設計段階から根巻き厚さや仕上げとの取り合いを細かく検討する必要 |
メンテナンス | 表面からの点検や補修が容易だが内部腐食は発見しにくい場合も | 点検口を設けないと金物部の状態確認が難しい |
施工や設計で気をつけるべき事項
- アンカーボルト位置の精度
鉄骨柱を据える前にアンカーボルトを埋め込んでおく場合、位置や高さが狂うと根巻きの厚みに誤差が生じます。結果としてデザインや耐力に影響が出る恐れがあるため、基礎打設時の墨出しや固定治具の使用が欠かせません。 - 熱橋対策と断熱計画
根巻き部はコンクリートやモルタルを通して熱が室内外に伝わりやすい「熱橋」になりがちです。断熱材を適切に配置する、もしくは外断熱・内断熱を組み合わせるなど、結露や熱損失の対策を考慮します。 - 動きとクラック制御
根巻き部分は柱脚が受ける荷重や地震力に応じて微妙に動きます。動きに追従できないとコンクリート表面にクラックが入る恐れがあるため、補強筋の配置や収縮目地を設けるなど、クラック制御策を講じましょう。 - 防水と仕上げ材の取り合い
外部に面する根巻き柱脚は、床や壁の防水層との取り合いが複雑になりやすいです。雨水浸入を確実に防ぐため、コーキング材の施行や水返しなどの詳細設計を慎重に行います。仕上げ材を貼り付ける場合は、接着強度やひび割れによる剥落を防ぐ工夫が必要です。 - 既存建物の補修・改修
既存建築物で根巻き柱脚に改修したい場合、柱脚まわりの既存コンクリートや仕上げを一部はつってから新設部分を巻くことになります。接合面の処理や新旧コンクリートの付着性確保が大きな課題となります。
Q&A
Q1: 根巻き柱脚と埋込み柱脚は同じものですか?
A1: 違います。埋込み柱脚は柱自体を基礎コンクリート内に埋め込む形式で、柱脚金物が内部に一体化しています。一方、根巻き柱脚は柱脚金物を露出した状態で据え付けた後、後からモルタルやコンクリートを巻き込む形で仕上げる手法です。
Q2: 根巻き柱脚はどのような建物に多く採用されますか?
A2: 主に意匠性や仕上げの美観を重視するオフィスビルや商業施設、公共施設などで採用されることが多いです。歩行者が多い場所や、柱脚金物を隠したい場合にも適しています。
Q3: 防水対策を強化すれば、内部腐食を完全に防げますか?
A3: 完全にゼロにするのは難しいです。隙間や微細なクラックから水分が侵入する可能性はあり、内部に水がたまると逆に腐食が促進されることもあります。定期点検と補修が大切です。
Q4: 根巻き部のひび割れを見つけたらどうすればよいですか?
A4: まず亀裂の深さや方向、幅などを調査します。必要に応じて注入材や表面シールで補修を行い、内部の金物が腐食していないか確認するのが理想です。
Q5: 根巻き柱脚の施工には特別な技術が必要ですか?
A5: 一般的なコンクリート打設の技術と型枠工事が中心ですが、柱脚部の寸法管理や補強筋の配置など、設計段階から綿密に計画する必要があります。経験ある施工会社に依頼するのが無難です。
まとめ
根巻き柱脚は、柱脚金物を隠してすっきりとした仕上げを得つつ、錆対策や防火性を高められる工法として、多くの建築物で採用されます。意匠性だけでなく安全面のメリットも大きい一方で、内部の腐食リスクやクラック対策など、いくつかの注意点があります。
設計段階では、アンカーボルト位置や根巻き厚さ、補強筋の配置などを細かく検討し、施工時には型枠や打設の精度管理を行うことが大切です。